ではジレンマを解くとは、どういう状態を実現すればよいのでしょうか。最初に確認したいのは、ジレンマの解消とはどちらかが勝つことが目的ではありませんし、上手な妥協法を見つけることでもありません。双方の目的が達成され、ウィン・ウィンの状態を実現するのが真のジレンマ解消なのです。
ジレンマが解けるか解けないかは、問題をとらえる力や解決策を実行する力だけではなく、行動のジレンマを生じさせている目的を共通のものとしてとらえられるか否かで決まります。共通の目的があるときには、ジレンマは必ず解けるのです。この共通の目的とは具体的な物であったり、「夢」や「ビジョン」であったりもします。逆に目的を共有できない場合には、「妥協」や「二者択一」以外の解を考えるのは非常に困難になります。
先ほどの例でいえば、値引き派はライバルの価格に合わせることで販売数量減を防ぎたいから値引きを主張するのです。一方、反対派は値引きをして1個当たりの利益がなくなることを恐れています。しかし、値引き派も反値引き派も共通に「企業は収益を上げることが目的である」と思っています。値引きするしないにとらわれない「収益を上げられる」解決策はないのでしょうか。ここに着目するれば、妥協ではない解決策を見いだすことは可能です。
図4はTOC思考プロセスの「雲:クラウド」と呼ばれるジレンマを形にするツールです。図中のそれぞれの矢印の関係を注意深く見てゆくと、ジレンマを引き起こしている主張の背景には必ず「なぜならば」という理由が存在します。そのなぜに着目して解決策を考えることで、双方の主張の裏側にあるニーズを満たし、ウィン・ウィンを実現できるのです。
今回は連載の第1回として、問題の解決を妨げるジレンマとは何かを見てきましたが、納得していただけたでしょうか。「なんだ当たり前じゃないか」と感じられる方は多いかもしれません。しかし、当たり前だと思うことを実践するのは、非常に難しいものでもあります。要するに、
TOC is common sense, but not common practice.(TOCの考え方は常識なんだけど、常識を実践するのは、ものすごく難しいし、誰もがやっているわけではない)
ということだと思います。
今回の連載で皆さんにご紹介してゆく「TOC思考プロセス」は、ジレンマを乗り超えるだけではなく、組織の変化を確実に実現するための体系的なアプローチなのです。つまり、組織のゴール(目的)に向かって変えるべきものと変えなくてもよいものとを明確にし、変えるべきものをどのように変えていくか(変化させていくか)を教えてくれる組織的な問題解決です。そしてこの変化を起こしていくために、「何を」「何に」「どうやって」変えるかという、3つの質問に答えながら進めるのです。
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次回は、「なぜならば……」に潜む落とし穴について話を進めていきましょう。
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