「いまさら聞けない 車載ネットワーク入門」で解説しているように、車載ネットワークの種類は複数存在する。ここでは、CANとそれ以外の車載ネットワークがどのように使われているか、その搭載状況を紹介する。
図3に主な車載ネットワークの搭載状況を示す。
本連載の主役CAN、低速・低コストの「LIN(Local Interconnect Network)」、高信頼・高速(ただし、高価)の「FlexRay」、制御系ではなく主にマルチメディア系で使用されている「MOST(Media Oriented System Transport)」の4種類が使われている。
図3では細か過ぎるので、これを簡略化して見てみよう(図4)。
ご覧のように、主にエンジンやABSなどの“パワートレイン系”で使用されているのが高速CAN「CAN-C(CAN-ClassC/SAE Class C)」で、ドアやシートなどの“ボディ系”で使用されているのが低速CAN「CAN-B(CAN-ClassB/SAE Class B)」だ。また、アクチュエータやセンサなどの“スイッチ・センサ系”では低速・低コストのLINが、ステアリング、ブレーキ、スロットルなどの“X-by-Wire系(注)”では高信頼・高速のFlexRayが、カーナビゲーションシステムやオーディオなどの“マルチメディア系”ではMOSTが使用されている。
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前述のように車載ネットワークにもいくつか種類が存在する。では、それぞれどのような特長があるのだろうか、ここでは通信速度とコストから比べてみよう(図5)。
一般的に、CANのシステムコストを“1”とすると、LINはその約半分。より高速・高信頼のFlexRayではCANの約2.5倍、マルチメディア系の制御を行うMOSTになるとCANの約5倍ものシステムコストが掛かる。
次に、最大通信速度について示す(表1)(図6)。
通信プロトコル名 | 最大通信速度 |
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CAN-B | 125kbps |
CAN-C | 1Mbps |
LIN | 20kbps |
FlexRay | 10Mbps |
MOST | 24.8Mbps(50Mbps、150Mbpsも規格化) |
表1 各通信プロトコルの最大通信速度 ※ベクター・ジャパンの資料を基に作成 |
このように、一口に車載ネットワークといってもその種類は複数存在し、それぞれ得意とする分野が異なっている。そして、図3や図4で見たとおり、各通信プロトコルがその特性やコストなどにより、適材適所で使われていることが分かる。
以上の内容が「車載ネットワーク“CANの仕組み”教えます」の序章だ。ここで紹介した内容は、筆者が受講したベクターの「CANベーシック」という講習を基にしている。その内容は、今回紹介したようなCANの歴史からはじまり、CANコントローラの種類、CAN特有のビットタイミングの考え方など、入門者にとって必要十分な内容となっている。1日コースの技術講習を受けるのは筆者がエンジニアだったとき以来で、久しぶりの“お勉強”に若干の不安を抱いていたが、いざ受講すると演習問題や「CANalyzer(注)」を使用したCAN模擬通信などの体験もできて初学者でも理解しやすい内容であった。
さて、予告どおり次回以降ではベクターでトレーニング講師を務める増田氏を筆者に迎え、CANの仕組みについてより本格的な解説をお届けする。CANはほぼすべての自動車に採用されている通信プロトコルであり、さらにFA(Factory Automation)、産業機器などでも広く利用されている。そのため今後、車載ネットワークに関する技術を習得するうえでCANは必要不可欠な知識といえる。次回以降の本格的なCANの解説に期待していただきたい。(本編に続く)
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