潜水艦はどうやって沈んだり、浮かんだりできるのだろうか。沈むときは区画に海水を導入すればよい。重くなって沈む。では浮かぶときにはポンプを使ってその海水をくみだすのであろうか。時間がかかる。
このときも圧縮空気を使うのである。あらかじめタンクにためておけば、図3に示すように、それを海水を入れた区画に噴出して海水を追い出せばよく、緊急浮上できる。
しかし、圧縮空気を急に減圧させると、いわゆる「断熱膨張」という現象が生じるから、圧縮空気の温度は下がる。この断熱膨張はドライアイスを作るときに、現象がよく理解できる。二酸化炭素の高圧ボンベを買ってきて、先にノズルを付けて木箱の中に向かって噴出すればよい。50気圧の気体は1気圧に減圧されながら冷却されて、木箱の中には固体のドライアイスが次々に詰められる。
原子力潜水艦スレッチャー号は1963年にマサチューセッツ州の沖合で沈没した。潜航から浮上しようと、圧縮空気を海水の区画に噴出したが、何かのゴミに氷が包むように析出して、ノズルを詰まらせてしまって浮上できず、水圧でつぶされたといわれている。
消火器はレバーを引くと、粉末が勢いよく噴出される。中に火薬でも入っているのだろうか。
実際は図4に示すように、タンクの中に、液体二酸化炭素が入っていて、レバーを引くとタンク内が減圧して、液体は沸騰し気体に変わる。
そして、二酸化炭素は体積膨張しながら、リン酸アンモニウムの粉末を押し出して、それと一緒に噴出される。
工場では、非常用冷却水ポンプという製品を設置することが多い。一般に、冷却水は水道水を流し放しにすると水道代が高くなるので、モータで動くポンプを使って、加熱炉とチラーとの間を循環させる。ところが、停電になると悲劇が生じる。ポンプが停止してしまうのである。加熱炉の冷却管の中の水は沸騰し、体積膨張した蒸気は圧力を高め、いわゆる「水蒸気爆発」を発生させる。
筆者が工場で働いていたころ、停電時にセラミックスの静水圧プレス炉の冷却水が沸騰して水蒸気に変わった。高圧が掛かって炉のつなぎ口から外れてしまったホースは、むちのように跳ねて高温水をまき散らし、作業者がやけどを負った。このような停電時に役に立つのが、前述の圧縮空気で冷却水を押し出して循環させる装置である。圧力×体積が一定だから、10気圧の空気は1気圧になると体積は10倍になって、水は押し出されて冷却管の中を流れる。
空気を圧縮させてエネルギーをためる方法は、バネや蓄電池やフライホイールを使う方法と比べて、重量がほとんど増加しなくて便利である。そしてもっとエネルギー蓄積に効果的なのは、気体を液体や固体に変えておく方法であろう。それをうまく使っているのがロケットである。
ここで、火星に行って岩石を削って成分分析したい、というプロジェクトがあると仮定しよう。火星でドリルを回したいが、回転させるためのエネルギーのうち、重量や体積が最も小さいのは何だろうか。地上の電動ドリルを思い浮かべていると、モータ用に蓄電池や太陽電池を準備しなくてはならないと考えてしまう。でも、魚雷のように気体をうまく使えないだろうか。
何事も1つの設計解に固執するのは危険である。頭を柔らかくして別解を考えよう。
本連載はこれにて終了です。ご愛読ありがとうございました。(編集部)
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