コンロッドに設けられている工夫として有名なのは「オイルジェット」です(以下、写真3)。コンロッドの大端部に小さな穴を設け、そこからオイルを噴出させてピストンやシリンダ各部の潤滑を行うと同時にピストンの冷却を行うというものです。しかし「本当にオイルジェットが機能しているのか?」という疑問の声は現在もあり、まだまだ改良の余地がありそうな工夫といえるでしょう。
コンロッドにはとても大きな力がかかりますので、素材には鍛造によるクロムモリブデン鋼や炭素鋼などの特殊鋼が用いられるのが一般的です。エンジンの主要部品なので軽量化をすることで大幅な性能向上が見込めるのですが、ほかのエンジン部品同様にアルミニウムをベースにしてしまうと強度的に耐えられません。
もちろんアルミ製コンロッドの実用化は検討されているようですが、強度を持たせようとすれば、必然的に大きく作ることになり、シリンダ内という非常に狭い空間で動く必要があるコンロッドではなかなか実現しないようですね。そこでほとんどのコンロッドに施されているのが「形状による軽量化」です。強度はそのままで形状を工夫することによって軽量化を実現しているということです。一般的なコンロッドの断面形状は「I字型」(写真4)や「H字型」であり、余分な部分をそぎ取った形状にすることで強度の軽量化を両立させています。
そうはいっても、どちらかといえば重い素材といえる特殊鋼で技術者が納得するはずありません。コンロッドのようなエンジン回転に大きく影響する主運動部品の軽量化によって得られるメリットはとても多いのです。
コンロッドやピストンを軽くできれば、小端部と大端部に掛かる荷重が減ることになります。つまり広い面積で支えなくても、軽くなった分、面積を減らせるので、薄く作ることができます。“軽くなる”ということはエンジンの振動も小さくなりますので、クランクシャフトに設けているバランスウエイトも小さくすることが可能です。
これらによって、主運動部品のフリクション(摩擦)を減らせるので、爆発によって生じたエネルギーを効率よくエンジン出力としてタイヤに伝えることが可能で、トルク向上や燃費向上を実現することができます。
車全体として見れば、エンジンの軽量化を実現すると、エンジンを支えるためのマウントブラケットも小さく軽く作れ、フレームの補強も少なくすることが可能です。非常に重たいエンジンを軽くすることで、車重の前後配分も適正化されるので、操縦性や応答性が格段に向上します。当然、加速や燃費も良くなります。つまり、多少コストを掛けてでもエンジンの軽量化を実現させることは大切なのです。
上記を踏まえて考えてみると、多少コストを掛けてでもコンロッドを軽くしたいという気持ちが芽生えるのは当然ですよね?
そこで、特殊鋼と同等の強度を持ち、さらに鉄の60%という軽さを持つチタンが理想的な素材としてコンロッドに採用されることがあるのです。しかしチタンは高価な素材なので、一般的な量産車などではなかなか採用できません。車両価格に大きく影響してしまいますので、費用対効果で検討してみるとなかなか採用されないのです。
ではどのような車に採用されているのかというと、レースエンジンや一部のスポーツカーです。チタンコンロッドを採用している量産車として有名なのは、ホンダのスーパースポーツカー「NSX」です。
ご存じの通り、かなり高額な車両なので、チタンコンロッドの採用が可能だという代表的な例といえますね(今回掲載した写真はNSXのチタンコンロッドです)。実際にチタンコンロッドを手にして整備したことがありますが、驚くような軽さです。
関連リンク: | |
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⇒ | NSXを新発売(本田技研工業 プレスリリース) |
コストの面さえクリアできれば、間違いなくエンジン性能を大幅に改善できる救世主になる素材であることがヒシヒシと伝わってきました。チタンはマフラーやボルトなどにも積極的に採用されるようになりましたが、需要が急激に増えていることで原材料の価格が高騰しているようです。
現在は安いチタン合金が開発されてきているようなので「今後に期待!」といった感じですね。
軽量化という観点で見れば、1つ大胆な手法もあります。それは「エンジン性能を落とす」という手法です。もちろんトータル性能として落としてしまうのはどうかと思いますが、ここでいいたいのは、
「エンジンの燃焼圧力を落とし、各部品への荷重を減らして軽量化する」
ということです。
エンジンの燃焼圧力を落としてしまうと、当然エンジンの出力は低下します。しかし、それに伴って各部品を軽量化できればフリクションを大幅に減らすことが可能になります。
最終的な出力で見てみると、燃焼圧力は低下していても最終的な出力としては向上しているということがあるのです。エンジン出力にばかり気を取られていると、効率的な設計ができないこともあり得ます。
このように、設計の時点で広い視野を持って工夫をすることが軽量化やコスト削減に結び付くことになるのです。
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