オートデスクは、2008年4月16日の記者発表会で、同社の製造業向け設計製品に関する説明を行った。
「当社では今後、『CADをどう使うか?』から、『デジタルデータをどう活用するか?』というコンセプトに変えていく。もう『CADパッケージベンダ』だとPRしない」とオートデスク 製造ソリューション本部長 大谷 修造氏は主張する。
これまでと同様、同社はデジタルプロトタイプに力を入れていくという。「3次元モデルを利用し、設計の早い段階で検討できることはしてしまう――これは、昔からあったフロントローディングの考え方だが、当社で提案したいのはそれだけではない」(大谷氏)。プロセスの早い段階での解決を促していくが、この“早い段階”とは設計業務のそれとは限らないというわけだ。
同社 製造部門の顧客ターゲットは、主に産業機械、自動車・運輸、設備関連、いわゆる「一品一様」「受注生産」の世界である。その大半が中小企業だという。この分野の設計ツールに関しては、3次元CADよりも2次元CADの需要が大きい。部品の詳細形状を詰める検討より、機構部品をどのように組み合わせるか? 要は、レイアウト検討の要素が強いためによる。3次元データも活用している場合もあるが、2次元CADにおける作業とはリンクさせないのが大半であるようだ。
従来、2次元CADのAutoCADシリーズを強みとしてきた同社にとっては、格好のターゲットであるともいえるが、それに甘んじていては“脱・CADパッケージベンダ”は成し得ない。
ターゲット顧客が2次元データで十分と考える設計作業をわざわざ3次元データへ移行させるべく説得材料が必要ということになるが、先述のとおり、その大半が中小企業であり、決裁者は経営者自身であることが多い。大谷氏はこれが「壁」であると表現する。CAD(ツール)の稟議として通そうとすれば、そのメリットを十分に理解してもらえず、導入決定までに至りづらいのである。
そこで大谷氏は、商品企画から設計/製造、マーケティング、サプライチェーン展開までを包括するプロセスを一挙に管理する、1つの“デジタル経営システム”として提案することが肝要であると述べた。
まずは、「Autodesk Inventor」では2次元CADに近い検討環境を提供する。2次元ビューで、あらかじめ登録してある部品をウィンドウから選択し、レイアウト画面上に乗せ検討していくという作業が可能だ。そこで作ったデータは、そのまま3次元データとなる。次に、そこで作ったデジタルデータを余すところなく利用していくようにする。そのデータとは、3次元データ(寸法データ)ばかりではない。部品仕様のデータや部品番号などの管理関連データなども含む。
次に大谷氏は、「業務フローの中で、部署をまたぐたびに書類が行ったりきたりしてこんがらがることを『エンタープライズ・スパゲッティ』と(私は)呼ぶが、まずはこれを解消する」と説明した。
例えば設計変更や改善をするにしても、いちいち伝票が発生し、しかもそれは、たびたびの差し戻し、滞留などが起こり得る。それらの行き来をスムーズにしていくのが、3次元設計ツールと連動する、同社の3次元ビュア「Autodesk Design Review/JetStream」、BOMツール「Autodesk Productstream」、プロジェクト管理ツール「Autodesk Streamline」などであるという。3次元設計ツールは同社の「Autodesk Inventor」でなくとも、これらとの連動は可能であると大谷氏は説明した。
同社は、機械CAD(「AutoCAD Mechanical」「Autodesk Inventor」)だけではなく、電気CADも自社製品として持つ(「AutoCAD Electrical」)。
Autodesk Inventerでは、AutoCAD Electricalと連携しながら、ハーネスや端子の検討が可能である。「エレ/メカ両方のCADを開発しているのは、当社ぐらいだ」と大谷氏はいう。
また同社の「Autodesk Intent 2009」は、コンポーネント(部品)の組み合わせルールを管理するツール(「ルールエンジン」)で、見積もりを自動作成したり、BOMへ自動反映したりなども可能だという。ただし国内では、まだテスト販売の段階だという。正式販売の日程や価格などはまだ未定とのことだ。
オートデスクは2006年1月に3次元CGソフトウェアベンダのエイリアスを買収している。
Autodesk InventorとCGデザインツール「Autodesk Maya」「Autodesk 3ds Max」との連動させることで、物ができていないうちからCMやパンフレットなどの作成を可能とさせ、早期のマーケティング活動を支援したいと大谷氏は述べた。
エイリアスの技術コラボレーションにより生まれた「Autodesk SketchBook」は、最近までエンターテインメント部門のみの扱いだったが、これからは製造部門でも扱うという。このソフトウェアは、人の筆圧を感知でき、デジタル上でも手描き感覚でスケッチできるというもの。Autodesk Inventorとデータリンク可能なので、プロダクトデザインと機械設計との連携に有利であると大谷氏は説明した。プロダクトデザイナーばかりではなく、機械設計担当者にも使ってもらいたいという。
「産業機械の設計担当者は、例えば、机の上でCADを立ち上げているけれど、その横でポンチ絵を描いて構想検討をしたり、なんていうことも多い。そのポンチ絵も、ぜひデジタルでやってもらいたい」と大谷氏は話した。
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