3次元CADの製図機能を使わずに、ほかの2次元CADで作図するなんてもったいない! でも、修正履歴の管理はどうすればいいの?
どれくらいの時間が過ぎたのだろう。カップの底に10mmほどの深さで残っているコーヒーも、ゆみさんと話し込んでいる間に冷たくなってしまったようだ。
技術者の悲しい癖かな……。頭の中で残りの体積を計算してみる。カップの直径を60mmとすれば、半径は30mm(まあ、3cmだな)、円周率π(3.14)を3と近似すれば、残っているコーヒーの体積は、3cm×3cm×3×1cm=27cm^3(立方cm)ということか。
そうそう、立方cm(=cubic cm)だから、27ccということだ。「私のはブラックだから、比重を1と考えれば、約1oz(オンス=約28グラム)か……」そのようなことに1人で納得しながら、苦くなった液体を飲み干し、お代わりを頼んだ。
さっき見せた「カップの設計問題」で「ゆみさんは、どこまで考えを広げてくれたのかなぁ?」などと思いながら、「図面」の話題を切り出す。
龍菜「ゆみさんは、デジタルカメラメーカーの開発部門で設計アシスタントをしているということだけど、図面の扱いはどうされていますか?」
ゆみ「私が働いている会社では、設計ツールとして3次元CADを使っていますが、製図の段階になると、2次元CADにデータを移行してから、出図用の図面を作成しています」
龍菜「また、面倒くさいことを。3次元モデルの方に変更があった場合はどうするんですか?」
ゆみ「それは、ご想像のとおり、別の2次元CADで作成した図面をこまめに修正するんですよ。大変な作業だし、面倒くさいので、修正漏れもたくさんあります」
こういう企業は、意外と多い。要するに「製図」が「目的」になっている。「違うでしょうが」と思いながら熱いコーヒーをひと口飲んでから、ゆみさんへ質問を投げ掛ける。
龍菜「ゆみさんは、図面って、何のためにあると思う?」
ゆみ「はぁ〜?」
あまりにも基本的な質問だったのだろうか、戸惑いながらも答えを探しているようだ。
ゆみ「人に形状を伝えるため……でしょうか?」
龍菜「形状を伝えるためだけだったら、3次元モデルだけでもいいはずだよね」
ゆみ「そういえば、展示会でも『3次元単独図面』なんていうのがありましたね。2次元図面は、要らないのかなぁ〜」
龍菜「それは、図面の役割をどのように考えるかで、答えは違ってくるよ」
ゆみ「私がいた会社では、設計の最終成果物が2次元図面なので、手段はどうであれ『製図できればいいんだ』みたいな雰囲気でしたよ」
龍菜「そういう会社も多いね。でも例えば、ここにあるデジタルカメラだけど……」
そういいながら、私はバッグの中から、少々旧式のデジタルカメラを取り出した(写真1)。ゆみさんの職歴を前もって聞いていたので「説明で使うかもしれないな」と思って、準備しておいたのだ。
龍菜「ゆみさんは、どのあたりを担当しているのかな?」
ゆみ「シャッターボタン周辺の機構や部品です」
龍菜「じゃ、シャッターボタンの図面を例に説明してみましょう。先ほどの話からすると、ボタンのモデリングが済んでから製図に取り掛かっているということだけど……」
ゆみ「はい、3次元CADで図面に必要なビューだけ配置して、後は別の2次元CADで製図しています」
龍菜「へぇ〜、それじゃ、ボタンの寸法とか、ケースとのすき間なんかは、どうやって確認しているんですか?」
ゆみ「画面上のモデルとかアセンブリで……」
龍菜「それで分かるの?」
ゆみ「測定コマンドで……」
龍菜「ちゃんと確認したよ、という証拠は?」
ゆみ「みんなに信頼してもらっていますからっ、私は」
龍菜「いや、そういうことじゃなくって、書類として残していますか? ということなんだけど」
ゆみ「…………」
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