どうも、2次元CADに慣れ親しんできた人ほど、製図作業は2次元CADの方がやりやすいというイメージがあるようだ。しかし、よく考えてみると、部品の形状は3次元モデルとして作るのである。製図といっても、2次元CADのように作図するのではなく、寸法を記載する作業だけなのだが。
テーブルにメモ用紙を広げながら、分解されたデジタルカメラのシャッターボタンのポンチ絵を描いてみた。
龍菜「簡単な形状だけど、ゆみさんは、いつもどんな手順で設計していたんですか?」
ゆみ「意匠デザインから製品外観の3次元データをもらって、設計がスタートするんですけど、私のところに来る時点では担当ごとに分割されています」
龍菜「じゃ、渡されたデータの範囲で検討するわけか……」
ゆみ「担当ごとに作業して、そのデータを後で組み合わせるって感じです」
龍菜「それはそれで、問題のあるやり方だね」
ゆみ「どうしてですか!?」
龍菜「例えば、こんな図面を描いていませんか?(図1)」
先ほどのポンチ絵に簡単な3面図と設計基準を書き加えながら、説明を続ける。
龍菜「カメラは光から設計するよね。だからといって、シャッターボタンの設計基準を光軸の位置にしているんじゃないですか?」
ゆみ「そうですけど……」
龍菜「設計のやり方を聞いていると、最後に光軸の位置で全部のデータを組み付けてしまうやり方だね」
ゆみ「2次元CADの時代からそうなんですけど、ダメですか?」
龍菜「そんなことしていると、このシャッターボタンをほかのカメラに共通使用するときに困るよ。だって、組み付け距離が違ってくるんだから」
ゆみ「確かに、カメラが異なると、設計基準の意味がなくなりますね」
龍菜「部品の設計基準なのに、アセンブリの組み付け情報も含んでいるから、そういうことになるんですよ。部品そのものの設計基準をちゃんと考えないと……」
ゆみ「じゃ、アセンブリに組み付けるときは、どうすればいいんですか?」
龍菜「アセンブリの設計基準に対して、距離を離して部品の設計基準を拘束すれば大丈夫でしょ」
ゆみ「でも、カメラ全体の中でシャッターボタンの位置関係も知りたいし……」
龍菜「それはね、ちゃんとアセンブリの検討図……『組図』というのかな? 組図を作らないとね」
ゆみ「それも、後で作っています!」
龍菜「しかも、別の2次元CADを使ってでしょう。……困ったことですね」
ゆみ「3次元CADを使っているにもかかわらず、図面を修正し忘れたせいで部品の干渉が発生したり……、確かに問題は多いです」
龍菜「せっかく、データ連携の仕組みがあるんですから、3次元CADではモデル作成と図面作成を同時進行させるようにしましょうよ。組図では、自分が気になってチェックした部分に寸法を記載しながら進めるんです」
ゆみ「そうなんですか……」
龍菜「作図するわけじゃないですよ。寸法を記載しながら検討結果を残していくというイメージかな」
新しいメモ用紙に組図で検討結果を残す例を描きながら説明していると(図2)、それをのぞき込んでいたゆみさんの目から不安の色が少し薄れ、輝きが増してきたように感じた。
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