ETSS(組込みスキル標準)のスキル基準は、組み込みソフトウェアに関する技術を体系的に整理し、そのスキルレベルを定量的に見える化するためのフレームワークです。
ETSSスキル基準のフレームワークには、3つの観点が盛り込まれています。まず、「スキルカテゴリ」でスキルを体系的に分類・整理します。そして「スキル粒度」としてスキルを階層的に分類・整理し、「スキルレベル」でスキル項目ごとにレベルを定量的に表現します。
スキルカテゴリは、組み込みソフトウェア開発に関する技術スキルを以下の3カテゴリに分類しています。
組み込みシステムに必要な機能が「技術要素」であり、それらを利用して開発のプロセスを実行するのが「開発技術」。開発を円滑にするため、監視や制御の「管理技術」を適用する、というイメージです。
スキル粒度は、スキルカテゴリを基点とした階層構造です。スキルカテゴリの下に、関係する開発技術を階層的に分類し、階層が深くなるにつれて具体的な技術項目となるようにします。スキル診断を行うのに適当な技術項目が分類できるようになるまで階層を深め、その最下層に分類された技術項目を「スキル項目」とします。
スキル基準として標準化しているのは、第2階層までです。第3階層以降は未定義であり、利用者側で規定するものとしています。
要素技術の場合、第2階層で提示されている各分類に対して階層を追加し、具体的な技術名称を設定することになります。例として、FTPに関するスキルを定義する場合を想定してみましょう。追加するのは、通信−インターネットの個所になります。ただし、インターネット系のプロトコルを第3階層に羅列するのは現実的ではありません。そこで、第3階層には透過的データ転送と応用処理(いわゆるアプリケーション)を配置し、応用処理の配下にFTPを定義することになります。
また、要素技術には「作れるスキル」と「使えるスキル」の観点が存在します。引き続きFTPを例に取ると、FTPのプロトコル機能を作る(ソフトウェア開発)ことができるのか、FTP機能を部品としてFTP機能を具備する機能を作ることができるのかを示すことになります。
開発技術と管理技術の場合は、第3階層以下で各企業や団体が行っている作業や利用している手法およびツールを技術として定義します。教育機関でスキル基準を考える際は、教育すべき技術を定義します。
標準的な作業手順が存在している企業や団体では、その作業項目や管理項目をスキル基準の第2階層にマッピングします。標準的な作業手順が存在しない組織においては、まず現状認識と標準化を行う必要があると思われます。
スキルレベルはスキル項目やスキル分類ごとにレベルを示すものです。スキル基準では、レベル1〜4の4レベルで表現します。
レベル1と2は、1人でできるか否かの違いです。「1人でできる」とは、一定の範囲に対して、技術的な支援を必要とせずに作業できることを指します。「一定の範囲」は、スキル項目の技術粒度に依存します。例えば、スキル項目がTCP/IPすべての場合は、かなり広く大きな規模が対象となります。IPだけに限定したり、IPをさらに機能モジュール別に分割してスキル項目を定義すれば、1人でできる可能性は高まります。また、「作業できる」という判断は、確実性や効率、正確性などの観点で、自律して業務を任せられるか否かが目安になります。
レベル3と4は、技術に対して貢献できるレベルです。レベル2は作業を確実に実施できるレベルですが、ほかの人がそれをできる環境を作り出すのがレベル3というわけです。スキル基準Ver1.0では、「指導できる」ことのみを記載したため、当初の意図と異なりレベル2の人材にティーチングスキルを追加すればレベル3になってしまうという印象を与えてしまいました。レベル3の真意は、経験に基づいてその技術を作業標準化あるいはチェックリスト化するなどして、他者に伝達できるスキルを意味します。
レベル4は、対象となる技術を用いて新たな技術を創造するレベルです。新たなプロトコルをRFCとして作成したり、新手法の開発ができるスキルという意味です。
ETSSでは、このレベル3や4のように、技術を極め広めるスキルレベルを保有する人材を増やしたいと考えています。開発力強化を実現するには、作業できる人材も必要ですが、技術へ貢献できる人材を増やすことが必要なのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.