まだ面白さや魅力を知らない人に、それをどう伝えるか:自動車業界の1週間を振り返る(2/2 ページ)
今週ではなく先週の話題ですが、先日鈴鹿サーキットに行ってきたときのことを紹介します。
サーキットは世界各地にありますので、メディア&テクノロジーセンターは海や大陸を超えてサーキットとやりとりします。通信速度は10Gbpsで、遅延時間は英国から最も遠いオーストラリアでも片道150ミリ秒にとどめています。生放送は1シーズンに430時間以上行われているそうです。テレビ局など向けにグラフィックやCGも制作しますし、1000分の1秒単位で計時も行います。
イベントテクニカルセンターには750台の機器が収納されていますが、ハードウェアを提供しているのは2022年からF1のオフィシャルパートナーで、今回のF1日本グランプリのタイトルスポンサーでもあるLenovo(レノボ)です。イベントテクニカルセンターはサーキット常設ではなく、レースごとに世界各地を移動します。その都度組み立てて設営し500TBのデータ量を受け止めるのだそうです。設営に使える日数は、短い場合で4日間という場合もあるのだとか。
世界中のF1ファンが、場合によってはリアルタイムで待っている中で、遅延なく安定してコンテンツを届けるのは「ミッションクリティカルだ」とLenovo Asia Pacific Solutions and Services Group, Executive Director and General ManagerのFan Ho氏はコメントしています。
ファンを増やす、もっと引き込む
あまり知名度のないスポーツだと世界大会の前にメディアなどがルールや見どころなどを詳しく紹介しています。ただ、モータースポーツの多くは既に一定の知名度があるせいか、詳しい人に向けたメディアと詳しいファンで盛り上がっているため、初心者にはハードルが高く見えてしまいます。
しかし、きっかけや見せ方(魅せ方)さえ用意すれば、初心者であっても「すごい! かっこいい!」と盛り上がることができる懐の広さがあると思います。サーキットに行けばもちろん楽しいし、リアルタイムな配信や今後のAR/VR活用などによって行けなくても楽しめる方法も広がろうとしています。
また、“500TB”にはまだまだ使いこなす余地があります。LenovoでChief Marketing Officerを務めるEmily Ketchen氏は「今後もF1のテクニカルな部分でのパートナーシップを継続、拡大してどのようなニーズにも応えていきます」と述べています。どうやって、どんな風に楽しさを伝えていくか、自動車業界にとどまらないさまざまな協力の可能性がありそうですね。
過去のホンダのF1ファンからは「やっぱり買うならホンダのクルマがいいと思った」という話を聞いたことがあります。F1の技術と接点がない車種だとしても、「あのF1で頑張るホンダのクルマである」ということがうれしかったのだそうです。それなりによくできたモノが手ごろな価格で手に入る今、「このブランドがいい」と思う気持ちは薄れてもおかしくありません。F1にかかわる自動車メーカーが増えていく中で、どのようにファンづくりをしていくのか注目したいと思います。
今週はこんな記事を公開しました
- 自動車メーカー生産動向
- 船も「CASE」
- 組み込み開発 インタビュー
- ジャパンモビリティショー2023
- 自動運転技術
- 製造マネジメントニュース
- 電動化/脱炭素
- 車載ソフトウェア
- 車載セキュリティ
- 組み込み開発ニュース/組み込み採用事例
- 車両デザイン
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- モータースポーツの見どころは順位だけではない! 「走る実験室」で磨かれる技術
順位を競うだけではないのがモータースポーツの世界だ。技術競争の場でもあるからこそ、人やモノ、金が集まり、自動車技術が進化する。知られているようで知らないモータースポーツでの技術開発競争について、レースカテゴリーや部品ごとに紹介していく。1回目はF1(フォーミュラ・ワン)を取り上げる。 - ホンダF1復帰、電動化拡大とカーボンニュートラル燃料活用が決め手
ホンダは2026年からFIAフォーミュラ・ワン世界選手権に参戦すると発表した。 - アウディが2026年からF1参戦、脱炭素の新たなレギュレーションで参加を決断
アウディは2022年8月26日(現地時間)、2026年からフォーミュラ・ワン(F1)に参戦すると発表した。パワーユニットも含めてアウディで開発する。持続可能性とコスト効率に焦点を当てる新しいレギュレーションを受けて参戦を決めた。2022年末までに、どのチームと提携してF1に参戦するかを発表する。 - レーサーのまばたきパターンを発見、認知状態を読み取る新たな指標へ
NTTとダンディライアンは、サーキットを高速周回中のレーサーの瞬目がコース上の特定位置で生じ、瞬目パターンの背後にドライバーの生理学的要因と運転行動に伴う認知状態変化が関与していることを明らかにした。 - 最高時速290kmで走行するフォーミュラカーを誤差10cmで測位、NTTドコモが鈴鹿で実証
NTTドコモは2020年12月14日、高精度GNSS位置情報サービスの実証実験で、最高時速290kmで走行中のフォーミュラカーで誤差10cmの測位に成功したと発表した。自動車や鉄道の自動運転などでの高精度測位技術の活用につなげていく。 - F1の2022年シーズンが開幕、技術規則の大幅改定で空力性能が変わる
2022年シーズンから技術規則(テクニカルレギュレーション)が大幅に改訂され、車体底面の空気の流れを利用してダウンフォースを生み出す「グラウンドエフェクト」が復活する。同時に、ホイールサイズが大径化、バイオ燃料も採用されるなど、かつてない大きな変更が加えられる。 - F1にこだわり続けたホンダ、なぜ参戦終了を決めたのか
ホンダの参戦終了は世界中のファンはもとより、F1関係者にも大きなショックを与えた。ただ、ホンダの経営判断を理解するには、自動車産業を取り巻く環境変化や、F1そのものの在り方についても配慮しなければならないのではないか。 - F1チームが風洞試験用モデル作成に3Dプリンタ導入、エアフローの理解に貢献
3D Systemsの3Dプリンタ「SLA 750」を、BWT Alpine F1 Teamが風洞試験用モデルの作成用に導入した。部品品質と生産性の向上に加え、設計の反復とイノベーションの加速によりエアフローの理解を深めている。