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F1の2022年シーズンが開幕、技術規則の大幅改定で空力性能が変わるモータースポーツ超入門(13)(1/2 ページ)

2022年シーズンから技術規則(テクニカルレギュレーション)が大幅に改訂され、車体底面の空気の流れを利用してダウンフォースを生み出す「グラウンドエフェクト」が復活する。同時に、ホイールサイズが大径化、バイオ燃料も採用されるなど、かつてない大きな変更が加えられる。

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 新生F1(フォーミュラ・ワン)が始まった。3月18日にバーレーンで開幕した2022年シーズンから技術規則(テクニカルレギュレーション)が大幅に改訂され、車体底面の空気の流れを利用してダウンフォースを生み出す「グラウンドエフェクト」が復活を遂げた。

 同時に、ホイールサイズが大径化、バイオ燃料も採用されるなど、かつてない大きな変更が加えられる。抜きつ抜かれつのバトルを展開するエンターテインメント性を確保しながら、カーボンニュートラルの実現に向けて動く新時代のF1が幕を開けた。

 F1を主催する国際自動車連盟(FIA)は当初、新しいレギュレーションについて2021年シーズンから導入する計画だった。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大を受けて1年先送り。2022年シーズンから適用することになった。


グラウンドエフェクトを導入したレッドブル レーシングの新型マシン「RB18」[クリックで拡大] 出所:オラクル レッドブルレーシング

→連載「モータースポーツ超入門」バックナンバー

禁止されていたグラウンドエフェクトが復活

 新たなレギュレーションによって大きく変わるのが空力性能だ。F1では1983年に禁止されていたグラウンドエフェクトが復活することになる。グラウンドエフェクトは航空工学用語に由来する言葉で、概念としては航空機の主翼によって生まれる揚力の発生原理を逆向き(地面の方向)に応用したものとなる。

 つまり、マシン底面(アンダーフロア)と路面との空間に空気が流れると負圧が生じるが、この負圧がマシンを路面に押しつける力=ダウンフォースとして作用することを示す。

 かつてのF1は、このグラウンドエフェクトによる強大なダウンフォースでコーナリングスピードを上げ速さを追求してきた。「グラウンドエフェクトカー」「ウイングカー」と呼ばれ、ウイングなどの空力パーツを付けなくてもダウンフォースを得るために、ボディー横の空気取り入れ口であるサイドポンツーンや、マシン後部のディフューザーの形状などに工夫を凝らしているのが特徴だ。

 しかし、グラウンドエフェクトは安全性向上の観点から1983年に禁止。1995年にはアンダーフロアに5cmの段差をつけた「ステップドボトム」を義務付け、ダウンフォースの削減を図ってきた経緯がある。FIAが2021年シーズンまで採用してきたステップドボトムを廃止し、再びグラウンドエフェクトを導入するのは、マシン同士のオーバーテイクを増やす狙いがある。

 ステップドボトムのマシンは、グラウンドエフェクトカーのように車体底面で多くのダウンフォースが得られないため、フロントウイングやリアウイング、ディフューザーといった空力パーツでダウンフォースを確保する必要がある。

 ただ、こうした空力パーツが乱気流を発生させ、後続マシンは先行マシンに追従することが極めて難しい状況になっていた。グラウンドエフェクトを導入するのは、乱気流の発生を極力抑えて後続マシンが受ける影響を少なくすることで、オーバーテイクを促進することが最大の目的となる。

 ただ、シーズン前の走行テストでは、各チームのマシンでグラウンドエフェクトによる弊害が表面化した。高速走行中のマシンが激しく上下動する「ポーポイズ現象」が発生。1970〜1980年代のグラウンドエフェクトカーでも問題になった現象だ。

 グラウンドエフェクトカーでは、車体底面を空気が通り抜けることで強大なダウンフォースが発生し、高速になるほど負圧によりマシンが路面に押しつけられ車高が下がる。一方、バンプと呼ばれる路面の凹凸や姿勢変化が起きるブレーキング時などではダウンフォースが抜けて車高が上がる。急激な加速と減速が連続するサーキットではこの状況が繰り返され、ダウンフォース量が変動することによってマシンが浮き沈みしてしまうのだ。

 時速300km以上にも達するF1で、ポーポイズ現象が大きな危険性をはらむのは言うまでもない。ただ、グラウンドエフェクト効果によってダウンフォースを得るように、ポーポイズ現象もまた空力開発によって解消されていくことになる。

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