F1の2022年シーズンが開幕、技術規則の大幅改定で空力性能が変わる:モータースポーツ超入門(13)(2/2 ページ)
2022年シーズンから技術規則(テクニカルレギュレーション)が大幅に改訂され、車体底面の空気の流れを利用してダウンフォースを生み出す「グラウンドエフェクト」が復活する。同時に、ホイールサイズが大径化、バイオ燃料も採用されるなど、かつてない大きな変更が加えられる。
マシンデザインの変化にも注目
2022年のマシンデザインはグラウンドエフェクトの導入によって様変わりした。象徴的なのがサイドポンツーン前方に装着していたバージボードだ。奇抜なデザインの空力デバイスだったが、新レギュレーションでは全面禁止。また、フロントウイングは装着できるエレメント数が減らされ、翼端板は分割ではなく一体パーツとして構成する必要があるなど、簡素化されたデザインに変わっている。
フロントタイヤにフィンが装着されたのも外観上の変化の1つ。空気抵抗や乱気流を低減する目的とされている。ただ、その装着位置がドライバーの視線を妨げることから、とくに市街地コースのような狭い場所では接触が増える可能性もあると指摘されている。
タイヤ・ホイールサイズの変更も新レギュレーションのポイントだ。ホイールは13インチから18インチへと大径化し、タイヤは偏平となり見た目が一変する。変化するのは見た目だけでなく、タイヤ&ホイールの重量増加、充填空気量の減少などにより、路面からの振動をタイヤで緩衝するサスペンション効果が少なくなるといわれている。
タイヤの18インチ化は市販タイヤへの技術展開を狙ったもの。すでに電動フォーミュラカーレース「フォーミュラE」では18インチタイヤが採用されている。
ホイールについては2022年シーズンから日本製のマグネシウム鍛造ホイールが採用される。BBSがワンメイクサプライヤーとなっており、製造工程のおよそ半分を富山県で行っている。市販用ホイールと同じ製造ラインで作られており、強度と軽さ、剛性を兼ね備えた高品質ホイールを全チームに供給する。実際のマシンにはホイールカバーが装着されるため見ることはできないが、新生F1の足元をメイドインジャパンの製品が支えることになる。
新レギュレーションでは脱炭素化に向けた取り組みも加速する。2022年シーズンから燃料に含有するエタノール(アルコール)を5%から10%に引き上げたバイオ燃料「E10」を採用する。
F1は2030年までにマシンから排出されるCO2を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指しており、E10の採用はこのロードマップに沿ったもの。23年からは水素とCO2から生成するeフューエルの導入も計画している。
2021年シーズンをもってホンダがF1を撤退し、日本のファンにとっては寂しい局面ではあるものの、世界最高峰のモータースポーツを舞台にした技術進化は止まらない。今シーズンから導入されるタイヤの大径化やバイオ燃料への適用は市販車技術にも生かせるものであり、F1の走る実験室としての役割が変わることはない。
2022年シーズンのF1は中止となったロシアグランプリを除く全22戦が予定されている。
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