非物体抽出にも対応した東芝の質問応答AIが「世界最高精度」を達成:製造現場向けAI技術(2/2 ページ)
東芝は2021年9月13日、画像内の対象物に関する質問に答えるAI(人工知能)技術「Visual Question Answering(VQA)」について、画像内の物体だけでなく非物体に関する回答も可能にしたことを発表した。
製造現場の安全モニタリングに活用可能
東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 メディアAIラボラトリー 研究主務の中洲俊信氏は質問応答AIの活用先として、製造業における安全モニタリングシステムを挙げる。
製造業にとって生産現場の安全確保は重要な問題である。一方で、最近では現場の人出不足や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって現場責任者の業務負担が増加傾向にあり、課題視されている。このため、労働者の安全を確保しつつ、管理監督業務の省力化を図る取り組みが必要となる。
解決策の1つとして挙げられるのが、AIを用いた安全モニタリングシステムの導入だ。カメラを通じて現場作業員の服装や工具の所持、作業場の環境などを撮影し、画像認識AIで分析する。事前に設定した点検項目からの逸脱を自動的にチェックする。この際に質問応答AIを用いれば、質問文を変えるだけで各現場に応じた適切な安全モニタリングが行えるようになる。
例えば、足場に関する点検項目でも、ある現場では足場の落下物確認が重要だが、別の現場では作業時の作業者の位置が重要になるケースなどがある。この場合は、これまでの現場では「足場に物が落ちていないか」を、新しい現場では「絶縁マットの上で作業しているか」をそれぞれ質問文として入力すれば、それに応じた回答が返ってくる。質問文を変えるだけで、各現場に対応した安全モニタリングを行いやすくなるのがメリットだ。
ただ、従来技術では判定項目を事前に作り込む必要があった。作業服などさまざまな現場で共通して使われているものの点検は対応しやすいが、「絶縁マット」や「足場」など現場ごとに変化しやすいものは、事前に画像内の位置を指定する形で人間が教える必要がある。一方で、東芝の新技術は作業者と周囲環境の関係を把握しやすいため、事前に教える必要なく正確な回答を返しやすいのが利点となる。
中洲氏は安全モニタリングAIの実用化に関して、「2023年度中の実用化を目指しており、東芝デジタルソリューションズが展開する『Meisterシリーズ』への適用などを考えている。技術的な課題としては、精度向上に向けて、製造現場などの画像データセットを用いてAI学習を進めたい」と語った。
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