SiCパワー半導体の回路シミュレーションを高精度化、三菱電機から新SPICEモデル:組み込み開発ニュース
三菱電機は2020年7月9日、同社が開発したSiCパワー半導体「SiC-MOSFET」のスイッチング速度を高精度でシミュレーション可能な独自のSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)モデルを新開発したと発表した。実測とほぼ同等のシミュレーションが可能となり、SiC-MOSFETを搭載したパワーエレクトロニクス機器の回路設計作業を効率化できる、
三菱電機は2020年7月9日、同月からサンプル出荷を始めるディスクリートのSiC-MOSFET「1200V-Nシリーズ」を搭載するパワーエレクトロニクス機器の高速スイッチング動作などを高精度でシミュレーション可能な独自のSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)モデルを新開発したと発表した。実測とほぼ同等のシミュレーションが可能となり、SiC-MOSFETを搭載したパワーエレクトロニクス機器の回路設計作業を効率化できる。
ディスクリートのパワー半導体を搭載したエレクトロニクス機器の設計時には、電力変換回路やゲートドライブ回路内の素子動作を事前にシミュレーションで予測する。このシミュレーション時に用いる回路解析ツールがSPICEである。
しかし従来のSPICEモデルでSiC-MOSFETのシミュレーションを行おうとすると、高速スイッチング動作で生じる電流波形を十分な精度で解析できないという問題があった。スイッチング速度は半導体内部の寄生容量値によって変化するが、従来のSPICEモデルではSiC-MOSFET内部にあるドレイン電極とソース電極/ゲート電極間に加わる電圧と寄生容量の相関関係を正確にモデル化できなかったためだ。このため、開発者は複数の電流/電圧条件下での実験データをSPICEに追加して、解析精度を補完する必要があった。
例えば、SiC-MOSFETが非導通から導通に切り替わるタイミングで生じるターンオンスイッチング波形の解析では、全ての電圧、電流で実験した測定値とシミュレーション結果がほぼ一致した。特にドレイン電流の波形では、電流立ち上がり波形の誤差を従来の40%から15%に削減できたという。このため、解析精度補完のための実験データの収集作業を省力化することにつながり、SiC-MOSFETを搭載するパワーエレクトロニクス機器の開発初期段階から回路設計を効率化できるとしている。
そこで三菱電機は、SiC-MOSFETのスイッチング中の電圧/電流波形から寄生容量の特性を詳細に評価し、その評価結果をより正確に反映することで、実験とほぼ同等のスイッチング波形のシミュレーションが可能な独自の高精度SPICEモデルを開発。これにより、従来実現できなかった高速スイッチング時の電流波形の高精度なシミュレーションが可能になった。
また新開発したSPICEモデルによって、スイッチング時の電流波形だけではなく、従来は十分に解析できなかったSiC-MOSFETを駆動する電流波形(ゲート電流波形)の高精度シミュレーションも可能になった。これによってSiC-MOSFETのゲートドライブ回路の設計において、想定される電流値に対する最適な素子の選定が可能になり、駆動回路設計のコスト削減にも貢献する。
なお、新技術の開発成果は同年7月7日〜8日(現地時間)にかけてオンラインで開催されたパワーエレクトロニクス関連の国際学会「PCIM Europe 2020」でも発表した。
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