“妹”も生まれる「地平アイこ」、誕生の秘密:インタビュー(1/2 ページ)
東芝の開発したコミュニケーションロボット「地平アイこ」(ちひらあいこ)。自然さにこだわり、展示会では手話も披露した。産業用ロボットは以前から手掛ける同社が、なぜコミュニケーションロボットの事業化を目指すのか。
東芝が2014年10月のCEATEC JAPANに展示した「地平アイこ」(ちひらあいこ)は、上半身だけながら43(顔に15、左右の腕に24、その他4)の自由度を持ち、「人間らしい自然な動き」を最大の特徴とするコミュニケーションロボット。その“人間らしさ”を生かし、CEATECの会場ではあいさつと手話を披露した。
同社は以前より産業用ロボットを手掛けており、原発対応の4足歩行ロボットも開発するなどロボット関連の取り組みを行っているが、地平アイこのようにコミュニケーションを主眼としたロボットは発表していない。
しかし、地平アイこの開発を契機とし、2020年をめどに各種センサーや音声認識、メカ制御などの要素技術を総合し、高齢者や認知症患者の話し相手ロボットや手話ロボット、見守りロボットなど、介護福祉やヘルスケア分野へのロボット投入を狙うとしており、新領域を目指す動きを加速させている。
同じロボットとはいえ、産業用とコミュニケーション用では対象市場から構造まで、全くと言っていいほど異なるが、なぜコミュニケーションロボット「地平アイこ」が誕生したのか。同社新規事業開発室 マーケティング担当 グループ長 徳田均氏に“彼女”の誕生のいきさつや今後の計画について尋ねた。
「ロボットを作ろう」ではなかった誕生の契機
――根本的な疑問なのですが、これまで産業用ロボットしか手掛けてこなかった東芝からなぜコミュニケーションロボットの「地平アイこ」が誕生し、介護福祉やヘルスケア市場へのロボット投入を狙うことになったのでしょうか。
徳田氏: 私の所属する新規事業開発室は将来的に大きく伸びそうな事業を探す部署で、「東芝の総合力を生かす」ことを考えたときに、コミュニケーションロボットという選択肢が浮上したのです。ですが、「どのようなコミュニケーションロボットにするか」については相当な議論がありました。
議論の中、社内SNSでアイデアを募り、手話ロボットというテーマが浮上しました。当初の案では等身大ではありませんでしたが、手話について考えを進めた結果、等身大(設定身長は165cm)のロボットにすることになりました。ですので、東芝の総合力を生かす方法を模索していたら「手話ロボット」にたどり着いたという流れでしょうか。
――では「ロボットを作ろう」という計画ありきではなかったのですね。
徳田氏: 未来の生活を考えていく際、やはりロボットが生活に入っていくことを期待する声が多かったのは確かです。そして、生活に密着するのであればヒト型のほうが都合が良いだろうという意見も多くありました。
計画自体は商品化までも念頭に置いたものですが、作ってみたらテクノロジーショーケースとしての力も強かったことはうれしい誤算です。手話ロボットの製作を通じて気が付いたのですが、最近のコミュニケーションはメールやチャット、SNSなどほとんどの場面でテキストベースになっていて、顔(表情)を介さないやりとりが増えているのです。
ですが、元来、人間は無意識に判断するほど顔(表情)の変化に敏感なので、コミュニケーションを考えるときに顔(表情)の要素は必要だろうという考えに至りました。これは日本だけの話ではなく、アメリカの展示会で彼女を紹介したときも現地の方に「Impressive」(印象的)という表現で評価をされました。そうした意味でも、コミュニケーションロボットは、介護施設などコミュニケーションが必要な場所で有用だと思います。
――ヒト型のコミュニケーションロボットといえば、石黒浩教授(大阪大学)の研究が有名で、地平アイこの開発にも協力しています(注:地平アイこの開発にはエーラボ、大阪大学、芝浦工業大学、湘南工科大学が協力している)。東芝ならではの強み、独自性とは何でしょうか。
徳田氏: 開発を始めて半年は石黒先生監修のロボットに追いつくだけで精いっぱいでしたし、実は手の動き以外はほぼ石黒先生とエーラボによるものです。石黒先生の研究は世界最高レベルなので、良いものは使わせて頂くという考えです。ですが、手話の動きを含めた動きの制御と、動きを自然に見せるための制御プログラムは独自のものです。
ロボット開発における難関の1つは、ハードウェアの違いをソフトウェアで吸収する制御プログラムです。地平アイこはまだ1体ですが、「人間らしい動き」の作り込みを標準化することを目標に、基本的に同型で6体までの製造を計画しています。
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