その安全対策は誰を守っているのか〜「注意してください」で機械災害は防げない:事例から学ぶ工場安全と機械設計(1)(3/3 ページ)

» 2026年10月26日 06時00分 公開
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安全と生産性は対立するとは限らない

 安全装置を付けると、生産性が下がると思われがちです。しかし、使いにくい安全装置は、やがて無効化される恐れがあります。反対に、異常が起きにくく、短時間で安全に復旧できる設備は、生産性も安定します。

 例えば、詰まりやすい部分を外から確認できる透明なガードにする。危険区域へ手を入れず、専用の治具で部品を取り除けるようにする。清掃や調整をガードの外から行える構造にする。異常の発生箇所と安全な復旧手順を操作画面へ分かりやすく表示する。

 危険区域へ入る必要がある場合は、安全扉を開けると危険な動きが止まり、停止が確認されるまで扉が開かない仕組みも有効です。ただし、安全装置を付ければ終わりではありません。故障や位置ずれ、無効化の可能性まで考えておく必要があります。

 こうした改善は、作業者を守るだけではありません。停止時間を短くし、設備稼働率を高め、製品や設備の損傷も防ぎます。

 大切なのは、安全対策を「作業を邪魔するもの」と考えず、設備の使いやすさや復旧のしやすさと一緒に設計することです。

災害の原因は事故の瞬間より前にある

 挟まれ災害が起きた瞬間だけを見れば、直接の原因は「作業者が機械へ手を入れたこと」です。しかし、時間をさかのぼると、別の原因が見えてきます。

 設備の仕様を決めたときに、詰まり除去作業を想定していなかった。設計審査で、自動運転中の危険だけを確認していた。試運転では熟練者だけが操作し、経験の浅い作業者による復旧を検証していなかった。生産開始後に詰まりが頻発しても、現場の工夫で対応し、設計部門へ情報が戻らなかった。

 こうして複数の小さな見落としがつながり、最後に作業者の行動をきっかけとして災害が表面化します。

 安全対策を考えるときに必要なのは、「誰が間違えたのか」という問いだけではありません。

  • 作業者が判断を誤っても、機械は人を傷つけなかったか
  • 危険な行動を取らなくても、仕事を進められる設備だったか
  • 異常や復旧作業を、設計段階でどこまで想定していたか

 このように原因をさかのぼることで、初めて再発防止につながります。

自社設備で確認したいポイント

  • 一時停止しただけの機械へ、作業者が手を入れていないか
  • 詰まり除去、清掃、給油、調整のために危険区域へ入る作業がないか
  • 停止中でも、センサーや他の作業者の操作で再起動する可能性がないか
  • 危険源の除去より、注意表示や教育を優先していないか
  • 安全手順を守りにくくする設備構造や生産条件がないか
  • 異常時の作業を、設計審査やリスクアセスメントで検討しているか
  • 現場で繰り返される小さな停止や復旧操作を、設計部門へ伝えているか

 注意表示を増やし、教育を繰り返しても、設備に同じ危険が残っていれば、いつか別の人が同じ場面に直面します。

 人は、急いだり、思い込んだり、危険に慣れたりします。その現実を前提として、人の失敗が重大な結果へつながらない設備をつくる。それが機械安全の出発点です。

 次回は、「機械は止まったのに、なぜ動いたのか」を取り上げます。エアシリンダーの残圧や昇降部の自重落下など、停止後も消えずに残るエネルギーの危険と、その対策を具体的に解説します。

著者プロフィール

森内眞

アルテム・イノベーション技術士事務所 代表

大学在学中に渡米し、MEMS開発に携わった叔父の下で4年間研究開発を経験。帰国後は、工作機械メーカーで横型マシニングセンタの開発設計や生産技術を担当した。1989年に独立してFA自動化設備のエンジニアリングセットメーカーを設立し、自動化技術や生産システムの知識を生かしてQCDマネジメントも行った。また、中国企業に招へいされ、工作機械やコンベヤーチェーンなどの製造企業で自動化や工場改善、技術者教育などを指導した。2016年に技術士事務所を開設し、現在は国内外の製造企業で技術コンサルタントとして活動している。


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