この作業者は、危険を冒したかったわけではありません。目の前で設備が止まり、次工程への供給も止まっていました。詰まりは短時間で直せそうに見えました。しかも、同じ方法で何度も復旧し、それまでは事故が起きていませんでした。
現場では、「少し手を入れれば直る」「これまで大丈夫だった」「保全担当者を呼ぶほどではない」という判断が積み重なります。やがて、本来は例外であったはずの行動が、日常作業へ変わっていきます。
手順書には、「異常時は設備を停止し、保全担当者へ連絡する」と書かれていたかもしれません。しかし、保全担当者がすぐに来られるとは限りません。生産目標があり、前後の工程にも影響します。停止のたびに連絡すれば、「それくらい自分で直せないのか」と思われる職場もあります。
このような状況で、注意力と規則だけに頼る安全対策が長く守られるでしょうか。
人は、作業を早く終えようとします。経験を重ねるほど、危険な操作にも慣れてしまいます。機械が止まれば、「もう動かない」と思い込むこともあります。これは、特別に不注意な人だけが取る行動ではありません。
事故を防ぐには、急いでいる人、疲れている人、経験の浅い人、設備の異常に慣れてしまった人でも、安全に作業できる設備にする必要があります。
機械安全では、危険を減らす対策に優先順位があります。
最初に検討すべきことは、危険源そのものをなくす、または危険の程度を小さくすることです。これを本質的安全設計方策といいます。
例えば、手を入れなくても詰まりを解消できる構造にする、挟まれても重大なけがに至らない力や速度に抑える、鋭利な形状をなくすといった方法です。詰まりそのものが起こりにくい搬送構造に変えることも、重要な対策になります。
設計だけで危険を十分に小さくできない場合は、ガードや安全扉、インターロック、ライトカーテンなどの安全防護を設けます。人が危険区域へ接近したとき、危険な動きを停止させる仕組みです。
それでも残る危険について、警告表示、取扱説明書、作業手順、安全教育などによって作業者へ知らせます。
ところが、実際にはこの順序が逆になることがあります。
設備の構造を変えるには費用が掛かる。安全装置を追加すれば作業性が低下する。納期も迫っている。そこで、危険な部分はそのままにして、注意表示を貼り、手順書へ注意事項を追加します。
注意表示は短時間で作れます。教育記録も残せます。そのため、安全対策を実施したという形は整います。しかし、危険源は何も変わっていません。作業者が表示を見落としたり、判断を誤ったりすれば、直ちに災害につながります。
「注意してください」という言葉は必要です。しかし、それを安全対策の中心にしてはいけません。表示や教育は、人が常に危険を認識し、正しく判断して行動することを前提としているからです。
冒頭の事例で見落とされていたのは、停止ボタンの役割です。
通常の停止ボタンは、機械の運転を止めるために使います。しかし、停止後も制御回路が生きていれば、センサーの反応、別の作業者の操作、制御プログラムの条件成立などによって、機械が再起動する可能性があります。
そのため、作業者が危険区域へ入る場合は、「機械が動いていないように見える」だけでは不十分です。作業内容に応じて動力源を遮断し、他の人が誤って復帰させない措置を取り、機械が安全な状態になったことを確認しなければなりません。
もっとも、現場に厳しい手順を求めるだけでは十分ではありません。詰まりが1日に何度も起こり、そのたびに複雑な停止/遮断操作が必要なら、いつか手順が省略される可能性があります。
まず問うべきなのは、「なぜ詰まるのか」「なぜ人が手を入れなければならないのか」です。詰まりやすいガイド形状、部品のばらつき、センサー位置、搬送速度、排出方法などを見直せば、危険な復旧作業そのものを減らせるかもしれません。
停止後も機械に残る空気圧、重力、ばね、回転体の慣性などの危険については、次回、詳しく取り上げます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Factory Automationの記事ランキング
コーナーリンク