本連載では、機械災害が発生する瞬間を出発点として、設計と現場の両面から原因をさかのぼります。その上で、「人が間違えても、事故につながらない機械と仕組み」をどのようにつくるかを具体的に解説します。今回は、「作業者はなぜ機械に手を入れ、挟まれてしまったのか」について考えます。
工場の自動化が進んでも、機械による労働災害はなくなっていません。
厚生労働省の「令和7年労働災害発生状況」によると、休業4日以上の死傷者数は13万5333人に上り、製造業は2万6371人と、業種別で最も多くなっています。また、事故の型別で見ると、「はさまれ・巻き込まれ」による死亡者数は117人で、前年より増加しています。
機械は安全に設計されているはずなのに、なぜ人が挟まれ、巻き込まれ、切断されるのでしょうか。
災害報告書では、「作業者が安全装置を解除した」「停止を確認せずに手を入れた」「決められた手順を守らなかった」と記載されることがあります。しかし、作業者の不注意だけを原因にしてしまうと、同じ災害が別の工場、別の機械で繰り返されます。
安全装置を解除しなければ生産できない設備ではなかったか。清掃や調整のために危険区域へ入ることが、日常作業になっていなかったか。機械を止めても、空気圧や重力、ばねなどのエネルギーが残っていなかったか。そもそも設計段階で、人が危険区域へ入る場面を想定していたか――。
機械災害の背後には、設計、製作、導入、生産準備、運転、保全、改造、管理という複数の段階で生まれた小さな見落としがあります。
本連載では、機械災害が発生する瞬間を出発点として、設計と現場の両面から原因をさかのぼります。その上で、災害を作業者個人の責任で終わらせず、「人が間違えても、事故につながらない機械と仕組み」をどのようにつくるかを具体的に解説します。
停止ボタンを押し、機械が止まったことを確認してから、作業者が設備の中へ手を入れました。搬送部で部品が斜めになり、後続の部品が詰まっていたためです。
この程度の詰まりは、時々起きていました。保全担当者を呼んで待っていると、生産が止まってしまいます。作業者は、いつものように自分で部品を取り除こうとしました。
ところが、詰まっていた部品を動かした瞬間、その部品を検出していたセンサーが再び反応し、停止していた搬送装置が自動的に動き出しました。作業者は手を引く間もなく、可動部とフレームの間に指を挟まれました。
事故後の調査では、停止ボタンは正常に働いていました。ただし、それは運転を一時的に止めるためのボタンであり、動力源を確実に遮断するものではありませんでした。制御装置には運転指令が残っていたため、センサーの状態が変わると再起動できる状態だったのです。
機械の近くには、「運転中は手を入れないでください」という注意表示もありました。作業者は安全教育を受け、手順書も読んでいました。それでも事故は起きました。
この安全対策は、誰を守っていたのでしょうか。
注意表示は、作業者を守るために設けられたはずです。しかし、その内容は「危険な場所へ手を入れないでください」と人に求めるだけでした。設備は、詰まりを取り除くために人が近づく場面を十分に想定していませんでした。
事故が起きた後に「作業者が手順を守らなかった」と結論付ければ、原因は簡単に整理できます。しかし、それでは設備に残っていた本当の問題を見逃してしまいます。
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