AIが導き出した最適解は、なぜ最適なのか? NTTが開発した「AI駆動型ラボ」は、ロボットとAIを組み合わせ、これまでブラックボックスだった実験結果を人間が理解できる「ルール」に変換する。同技術は、次世代半導体の開発サイクルを3倍に高速化し、世界初の成果を生み出した新技術に迫る。
NTTは2026年8月25日、AI(人工知能)と自動化技術を活用し、薄膜成長(成膜)を自律的に最適化するとともに、その過程で得られたデータを人が理解/転用できる成膜ルールに変換する「解釈可能な自律成膜」を実証したと発表した。
近年、AIや自動化技術を活用して科学研究を高度化/加速する「AI for Science」が注目されている。材料研究でも、機械学習を用いて実験条件を効率的に探索する取り組みが進んでいる。
特に半導体材料の性能を左右する成膜では、温度やガス流量など多くの条件が薄膜品質に影響を与えるため、効率的な条件探索が重要だ。NTTはこれまで、ベイズ最適化を用いた高品質な酸化物(SrRuO3)の成膜や、半導体物性の知識を取り入れた化合物半導体の成膜条件の自動導出など、AIを活用した高効率な成膜技術の開発に取り組んでいた。
ベイズ最適化とは、実験を通じた観測データ数が限られ、実験条件と結果の評価指標の関係が未知な状況において、最適な条件を効果的に探索するために用いる機械学習手法の1つだ。
一方で、従来のAIによる条件探索では、最適条件を見つけられる反面、最適化過程で得られるデータがブラックボックス化しており、「なぜその条件が良いのか」を人が理解し、他の材料系や成膜装置に展開できる知識として活用することが難しいという課題があった。
そこでNTTは、自律的に成膜条件を最適化するだけでなく、最適化過程で得られたデータから人が理解/転用できる成膜ルールを抽出する「解釈可能な自律成膜」の実証に取り組んだ。
「解釈可能な自律成膜」の実現に向けて、自動スパッタ成膜や自動光学評価、ベイズ最適化による次の成膜条件決定を連携させ、成膜から評価、次の成膜条件決定までを人による判断や解析を介さずに繰り返す自律成膜基盤を構築した。
スパッタ装置内では成膜に用いる基板(ウエハー)を自動搬送し、ベイズ最適化が提案した温度、スパッタ電力、アルゴン(Ar)流量、酸素(O2)流量の条件で成膜を行う。成膜後の自動光学測定データから薄膜品質を自動解析/評価し、その結果を基に予測モデルを更新することで、次の成膜条件が自動的に選択される。
これにより、従来の技術者/研究者による実験運用と比べて、成膜/評価サイクルを約3倍に高速化した。一方、ベイズ最適化による条件選択で、多次元の成膜パラメータ空間を効率的かつ精密に探索することが可能になった。
従来の自律実験では、AIが最適条件を見つけても、その条件がなぜ良いのかを人が理解し、他の材料や装置に展開できる知識として活用することが難しいという課題があった。この課題を解決するため、自律フィードバックループで得られた成膜条件と薄膜品質のデータを、複数の予測モデルを組み合わせるアンサンブル機械学習手法である「ランダムフォレスト」を用いて解析した。
ランダムフォレストとは、多数の「決定木」と呼ばれる予測モデルを組み合わせるアンサンブル機械学習手法だ。今回の研究では、ランダムフォレストによる予測結果を、各成膜パラメータの寄与とパラメータ間相互作用に分解して解析することで、各成膜パラメータが薄膜品質に与える影響や、パラメータ同士の相互作用、最適領域の構造を明らかにした。
これにより、複雑な多次元の最適化結果を、人が理解/転用できる成膜ルールとして抽出することが可能になった。同技術は、自律的な実験探索と成膜ルール抽出を一体化し、条件探索から科学知識の創出へ発展させる次世代のAI駆動型ラボの基盤だという。
今回の技術の実証対象として、次世代パワー半導体材料の1つであるβ-Ga2O3を選び、スパッタ法による成膜に適用した。β-Ga2O3は有望な半導体材料であるが、大面積化/低コスト化に有利なスパッタ法では、高品質な単結晶薄膜を得ることが困難だ。
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