「普通の眼鏡」がAI端末になる――スマートグラス市場の現在地と次の進化組み込みイベントレポート(2/3 ページ)

» 2026年08月12日 08時00分 公開
[松永弥生MONOist]

AIとの融合で「ようやくスマートに」

奈良先端科学技術大学院大学 教授の清川清氏 奈良先端科学技術大学院大学 教授の清川清氏

 では、普通の眼鏡として一日中身に着けられるようになったとき、スマートグラスは私たちに何をもたらすのだろうか。

 「私たちはこれから何を見るのか――XR・空間コンピューティングの視点より」と題した講演に登壇した奈良先端科学技術大学院大学 教授の清川清氏は、AIとセンシング技術がもたらす次世代の体験を示した。

 清川氏はこれまで、「スマート」と名乗りながらも実際のスマートグラスはそれほど賢くないと指摘し続けてきた。あらかじめ設定された情報を表示するだけでは、ユーザーが真に必要としているタイミングや状況を判断できないからだ。

 しかし、生成AIをはじめとする技術が周囲の状況や文脈を理解できるようになったことで、スマートグラスは「ようやく本当の意味でスマートになった」という。

 これまでのARアプリは、特定の場所や対象物に合わせて開発者がコンテンツを作り込む必要があった。例えば製造現場で設備の作業手順を表示させる場合でも、設備を認識する仕組みや3Dモデル、手順データをあらかじめ用意しておかなければならない。

 だが、AIが目の前の物体やユーザーの意図をその場で理解できれば、事前のアプリ開発(オーサリング)は不要になる。

 例えば、組み立て玩具の箱や部品を目の前に置くだけで、AIが自動的にマニュアルを読み込み、3次元的に部品を追跡し、「この部品とこの部品をこう組み合わせる」といった適切な指示をリアルタイムで生成して提示してくれる。こうした「オンザフライ」「オンデマンド」の情報提示が、数年のうちに当たり前になるというのだ。

次に必要なのは「人間を理解するセンシング」

 周囲の環境をAIが認識できるようになった一方で、現在のスマートグラスには決定的な弱点があると清川氏は言う。それは「装着しているユーザー自身のことをほとんど知らない」という点だ。

 ユーザーの眼球の位置、視力、左右の視野の欠損といった身体的な個体差をデバイス側が把握していないのだ。視力が弱ければ文字を大きくし、右側の視野が狭ければ重要な情報を左側へ寄せて表示する――。同じ映像を全員に一律で表示するのではなく、一人一人の見え方に合わせた最適化が必要になる。

 清川氏の研究グループでは、角膜に映り込む反射像から眼球の3次元位置をmm単位で測定する技術を開発してきた。これにより、実世界とAR映像のずれを極限まで無くすことができる。また、斜視のユーザーに対して表示映像の位置を調整して立体視を助けたり、光過敏のユーザーに対してまぶしい部分だけを選択的に暗くしたりするスマートサングラスなど、個人の視覚特性に応じた支援を行ってきた。

角膜反射像解析の例 角膜反射像解析の例[クリックで拡大] 出所:奈良先端科学技術大学院大学

 さらに今、同氏の研究が向かっているのは「目の健康状態を見守るスマートグラス」だ。

 ドライアイの進行を検知して点眼を促したり、子どもが画面や本を近づけ過ぎて近視が進行しそうになった際に、遠くへ視線を誘導して行動を変えさせる(ナッジ:自然に行動変容を促すこと)。情報を見せるだけの道具から、ユーザーの健康を継続的に守る「伴侶」のような存在への進化である。

先回り介入(ナッジ)、視覚支援 先回り介入(ナッジ)、視覚支援[クリックで拡大] 出所:奈良先端科学技術大学院大学

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