MONOist 構造的な分断を、どのように打破したのでしょうか。
森氏 まずは2025年頃から販売部門と物流部門のトップによる毎月1回の定例会議を始動させ、両部門が抱える課題や要求を直接すり合わせる機会を設けました。そして2026年1月、物流領域を生産部門から独立させ、新組織として「ロジスティクス部門」を立ち上げました。私はそのロジスティクス部門の統括およびCLOに就任し、新たな体制での改革を進めています。
この組織改編は単なる図上の変化ではありません。ロジスティクス部門が生産と販売の間に立ち、両者の情報をすり合わせる「橋渡し」の機能を確立した点が最大のポイントです。
通常、メーカーの生産計画は過去の販売実績などに基づいて立てられますが、最前線の商談状況によって需要が急変することは珍しくありません。そうした際、ロジスティクスが能動的なハブとして機能していれば、「この工場に在庫の余力があるから別ルートで出荷しよう」といった機動的な調整や、販売部門と連携して「A社の納品時間を1時間調整できれば、B社の要望にも応えられる」といった柔軟な物流提案が可能になります。結果として、花王側だけでなく、荷受けを行う小売業側にも作業の平準化というメリットが生まれるのです。
MONOist 「橋渡し」となることで、具体的に進めていることはありますか。
森氏 取り組もうとしている施策の1つが、「メーカー直送」スキームの強化です。工場で生産したケース単位の製品を、自社のLCを通さずに直接、小売業のセンターへ納品します。この仕組み自体は珍しくありません。
ここで当社は、商談段階から営業とロジが一体となり、小売業側と「どの工場から、何を、どれだけ出荷するか」を事前に合意した上で直送化しようとしています。この取り組みにより、需要の波動で逼迫(ひっぱく)しがちな当社LCの作業負荷が軽減されます。同時に、荷受けをするEC/小売業のセンターでも計画的な作業配置が可能になるため、結果として双方のサプライチェーン全体の平準化につながるのです。
MONOist 多くの企業が手探りでCLO体制の構築を進めている状況です。今後、新たにCLOに就任する方々や、改革をけん引していくリーダーにとって、最も重要となる心構えや資質は何だとお考えですか。
森氏 何よりもまず「現場を見て、知る」ことです。これに尽きると言っても過言ではありません。
法令上では、CLOには中長期的な計画の策定や、継続的な改善をリードすることが求められます。しかし、最新のシステムを導入したりデータ収集を強化したりする前に、現場の物理的な動きをアナログな目で理解していなければ、データを得たとしても、真の課題解決に向けて正しく活用することができないからです。
MONOist 具体的に、現場のどのようなポイントに注目すればよいのでしょうか。
森氏 重要な指標となるのが、オペレーションの「結節点」です。例えば、トラックがセンターに着車して荷物を降ろし、そこから庫内作業へと移行するプロセスを考えてみてください。ここには「場所」「作業」「時間」が切り替わる、変わり目が存在します。
ここをよく観察すると、「庫内への流し込み作業のオペレーションが滞ることで後続がストップし、結果的にトラックの荷待ちが発生している」といった現場のボトルネックが見えてきます。課題の真因を把握して初めて、自動化設備を入れるべきか、事前予約システムで入場を平準化すべきかという的確な判断が下せます。そのうえでシステムを導入しデータを可視化すれば、属人的な感覚に頼ることなく、関係部署全員が同じ事実を共有し、継続的な改善のサイクルを回せるようになるのです。
MONOist システムの導入や設備投資には、経営層の迅速な意思決定が不可欠です。これへの対応について教えてください。
森氏 かつて物流領域が生産部門に内包されていた時代にも、現場には多くの改善アイデアが存在していました。しかし当時は経営層への直接的なレポートラインがなく、工場の生産設備などとの優先順位争いで埋もれがちでした。そのため、現場が「どうせ提案しても通らない」と起案を諦めてしまう状況もあったと聞いています。
ロジスティクス部門の独立とCLOの就任は、組織のガバナンスを強化しただけでなく、現場の若手を含むメンバーの意識改革をもたらしています。経営層が投資判断に求めるのは、単一拠点の課題解決ではなく、「5年先を見据えた中長期計画の中で、その施策がどう全体最適や企業価値向上に直結するか」というストーリーです。現場の日々の効率化を、経営の言語と視点に翻訳して伝える重要性を、今では現場のメンバー自身が学び、吸収し始めています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製造マネジメントの記事ランキング
コーナーリンク