トヨタ自動車 デジタルソフト開発センターの西森久雄氏は、「規格カイゼン提案による電子部品の品質向上への取組み」と題し、国際規格に対する能動的な関わり方を提唱した。
トヨタがIPC規格を自社標準(TS)に積極的に取り入れている背景には、サプライチェーンのグローバル化がある。かつては「あうんの呼吸」で通じていた品質基準も、海外サプライヤーとの取引では論理的な説明が欠かせない。
「このパーツはTSC0001G(トヨタ標準)を順守すること」という指定の中にIPC規格を組み込むことで、世界中のサプライヤーと同じ物差しで会話できる土壌を整えている。
特筆すべきは、トヨタの姿勢が「規格に従う」だけでなく、「規格を自ら変える(カイゼンする)」ことにも向けられている点だ。西森氏は、実際にインドや米国西海岸などの現場を自らの足で視察し、国際規格が必ずしも日本の高度な品質実態に即していないケースがあることを確認した。
「元のIPC規格が曖昧だったり、日本メーカーの基準より緩かったりする場合、そのまま採用すると品質が低下する懸念がある」というアンケートでのフィードバックを受け、トヨタは日本タスクグループ(TG)を通じて、膨大な実験データに基づいた規格改訂案を世界に発信し続けているそうだ。
これは、受け身の標準化ではなく、日本の知見を世界標準に反映させることで、結果として自社の、ひいては業界全体の競争力を高める戦略的な活動であるという。
トヨタグループの主要サプライヤーである東海理化も、IPC規格を武器にグローバル競争を勝ち抜く戦略を進めている。同社 調達企画部の鈴木貴人氏は、長年培ってきた「社内標準」から国際標準へとシフトした経緯を語った。
東海理化がIPCを採用した最大の理由は、グローバル調達における効率化だ。自社独自の厳しい基準を海外サプライヤーに強いることは、コスト増やリードタイムの延伸、さらには優秀なサプライヤーからの敬遠を招くリスクがあった。
「IPCを共通言語とすることで、アルゼンチンから中国に至るまで、世界中の拠点で同じ品質基準に基づいた監査や技術指導が可能になった」と鈴木氏はそのメリットを強調する。
また、同社は単に規格を導入するだけでなく、約150ページに及ぶ日/英/中対応の社内教育資料を整備し、IPC規格と自社のノウハウをひも付けて若手技術者に継承する仕組みを構築している。
さらに、最新の「車載向け追加規格(Automotive Addendum)」の策定にも深く関与しており、はんだのぬれ上がり基準の適正化など、過剰品質を排除しつつ信頼性を担保する「実利」を追求した活動を展開しているそうだ。
今回の「はんだ最前線! 国際標準を活用した品質確保」セミナーを通じて示されたのは、IPC規格が決して遠い世界のルールではなく、日本の製造業がグローバルで戦うための「インフラ」であり、「武器」であるという事実だ。
手はんだ付けコンテストで証明された「技能の高さ」を、IPCという「世界共通の言語(規格)」に乗せて発信すること。そして、トヨタや東海理化のように、規格の策定プロセスそのものに深く関与し、日本の技術的優位性をルール化していくこと。
「ガラパゴス」な自社基準に閉じこもるのではなく、世界基準を自ら作り変えていく攻めの姿勢こそが、自動化・デジタル化が加速するこれからの電子機器製造において、日本企業が生き残る鍵となるだろう。
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