三菱電機と産業技術総合研究所が、共同で開発したFA向けサーボシステムのパラメーター調整回数を大幅に削減するAI技術について説明。AIと物理モデルの融合により、実験では熟練者が1週間かかるような調整作業を1時間まで短縮したという。熟練技術者不足が深刻化するSMTラインなどの製造現場の生産準備を効率化する。
三菱電機と産業技術総合研究所(以下、産総研)は2026年3月24日、東京都内で記者会見を開き、共同で開発したFA向けサーボシステムのパラメーター調整回数を大幅に削減するAI(人工知能)技術について説明した。AIと物理モデルの融合により、実験では熟練者が1週間かかるような調整作業を1時間まで短縮したという。
市場ニーズの多様化や製品の高性能化が進んでおり、それに伴って製造現場では生産工程の複雑化、高度化が進んでいる。生産設備を制御するFA機器の調整、プログラミングなどの作業工数が増加する一方、少子化などを背景に熟練技術者の不足が深刻化している。
三菱電機 先端技術総合研究所 産業オートメーションシステム技術部長の湯澤隆氏は「特に、生産ラインを立ち上げるための生産準備作業が高度化し、工数が増大する傾向にある。熟練技術者が足りず、設備の立ち上げが間に合わない現象が多発する事態になりかねない」と背景を語る。
微小な部品を取り付ける表面実装機や半導体製造装置では、機械の振動を抑えながら素早く目標位置に停止させる精緻なモーターの制御が求められる。機械の振動や目標位置への位置決め時間はアンプやコントローラーのパラメーター次第で大きく変化するため、熟練技術者が時間をかけて多数のパラメーターを調整しているのが現状となっている。
パラメーター調整の自動化に向けて、三菱電機と産総研は2019年にベイズ最適化を用いて、サーボシステムの位置決め制御におけるパラメーターの調整回数を大幅に削減するAI技術を開発した。ベイズ最適化は、全体の形が未知の関数や微分ができない関数の最大値または最小値を、関数の形を推定しながら探索的に求める手法だ。クッキー作りに例えると、試行錯誤しながら各材料の量などのデータを集め、最適なレシピを効率的に見つける手法となる。熟練者でも1週間以上かかるサーボシステムの位置決め制御を1日で自動調整でき、位置決め時間も最大20%短縮できるとした。
「ただ、実機データのみで最適化を図るため、調整結果は良好でも実機動作回数が多大なものになる。物理的な知見を持たないため、さまざまなパラメーターを試しながら、ゆっくりと絞り込んでいくことになる」(湯澤氏)
今回は、これまでの成果を基に、三菱電機が持つ物理モデルを活用することで、調整回数の最小化を目指した。
近年、制御設計では物理モデルを使ったシミュレーションが使われている。ただ、物理モデルで実際の機械全ての特性を再現することは難しく、物理モデル上で適切なパラメーターだと判断しても、実機で同様に再現できるとは限らない。実際に、物理モデルをただ利用しても予測誤差が大きく、精度が上がらないことが判明したという。
産総研 情報・人間工学領域 人工知能研究センター 機械学習研究チーム 招聘研究員の兼村厚範氏は「物理モデルのみを単純に利用したAIは性能的に限界がある。今回は、物理モデルの予測結果そのものを活用するのではなく、その中の特定情報のみをパラメーター最適化に活用する点が特徴になる」と語る。
ベイズ最適化に用いるガウス過程回帰のパラメーター同士の近さを測る関数において、当初は加速度などのパラメーターを用いていたが、良好なパラメーターと不良なパラメーターが混在してしまい、最適なパラメーターの探索が困難になっていた。そこで物理モデルで計算された位置決め時間や振動の幅などの指標によってパラメーター同士の距離を測ると、良好なパラメーターと不良のパラメーターの分離が比較的容易になることが分かった。
この発見がブレークスルーとなった。実験では、調整に要する実機動作回数を従来より約90%短縮することに成功したという。
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