「中国のスペースX」銀河航天は衛星をどう量産するのか 製造デジタル基盤の全貌中国メーカーのデジタルプラットフォーム戦略(4)(2/3 ページ)

» 2026年03月12日 08時00分 公開

Galaxy Spaceが進める製造デジタルプラットフォーム

 Galaxy Spaceのスマートファクトリーの責任者である程明氏は、スマートファクトリーの「インテリジェントブレイン」と「フレキシブルアーム」が生産ラインのフレキシブル生産能力とデジタル製造能力を高め、衛星開発サイクルを80%短縮すると説明している(出典元:中国工业报 https://baijiahao.baidu.com/s?id=1839687033152598816)。

 さらに、程明氏は記者団に対し、この衛星生産ラインは自動車の大量生産のように衛星を生産しており「1000kgの衛星を年間100基生産している」と説明する。現在、衛星製造にAI(人工知能)技術も導入しているという。中国江蘇省東南部の南通にあるGalaxy Spaceの衛星スマートファクトリーは、自動化された生産ラインで、年間生産能力は中型衛星100〜150基となっており、従来の方法に比べて生産サイクルが80%も大幅に短縮されたという(出典元:中国日报网 https://baijiahao.baidu.com/s?id=1854468895143775908)。

photo Galaxy Spaceの製造デジタルプラットフォーム[クリックで拡大] 出所:筆者がインタビューを通じて作成

1. 基盤となるインフラストラクチャ層

  • クラウドインフラ(IaaS/PaaS)
    • 全てのシステムはパブリッククラウド上に構築され、スケーラビリティ、柔軟性、そして全社的な連携を実現する
  • IoT プラットフォーム
    • 工場内のあらゆる生産設備(CNC工作機械、3Dプリンタ、AGV)、工具、さらには試験装置(振動試験機、熱真空槽)から、リアルタイムでデータを収集する。
  • ビッグデータ/AIプラットフォーム
    • 設計、生産、試験、軌道上運用から得られるPB(ペタバイト)級のデータを一元的に管理し、分析する。AIアルゴリズムを用いて、品質予測、異常検知、最適化を行う

2. 全ライフサイクルを貫く「デジタルツイン」

 デジタルツイン(Digital Twin)プラットフォームは心臓部であり、各フェーズのデジタルツインが「デジタルスレッド」によってつながれ、データが双方向に流れる。これは、Galaxy Spaceの商業的価値の中核を体現するものであり、衛星が宇宙空間にあっても自己診断を行うことを可能にしている。

  • 衛星のコア設計開発コンセプト:MBSE
    • 衛星の開発、製造で中核となるのは、従来のドキュメントベース企画、設計、開発をモデルベース化するモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)だ。Galaxy Spaceでは、システムモデリング言語(SysMLなど)を用いて、トップレベルの要件モデル、動作モデル(ユースケース図、アクティビティー図)、構造モデル(モジュール定義図、内部ブロック図)を構築している
    • 例えば、「グローバル通信カバレッジの提供」という要件であれば、軌道高度、ビーム数、通信リンクバジェットといった具体的な技術指標に分解され、検証方法が自動的に関連付けられる
    • MBSEの最終成果物は、シミュレーション検証済みの完全なデジタルプロトタイプとし、製造に必要な部品表、工程経路、テストケースを自動的に生成し、製造段階に渡す
  • 「解析としての設計」の実現
    • システムアーキテクチャが変更されると(例:衛星の重量増加)、構造、軌道、推進システムのシミュレーションが自動的に実行され、影響を迅速に評価し、後々の手戻りを回避する

デジタルツイン(MBDモデル)

  • 設計開発デジタルツイン(衛星自体)
    • MBDがそのまま設計のデジタルツインとなる。形状、機能、挙動の全てを定義する。製造中の個体識別レベルで、実際の製造/試験データ(例えば、あるボルトの締め付けトルク値や、熱真空試験の実測データ)がMBDモデルにひも付けられ、“As-Built”(製造された状態)を正確に反映する
  • 製造プロセスデジタルツイン
    • 物理的な工場と生産ラインの仮想モデル。製造実行システム(MES)と連動し、生産進捗、設備の状態、在庫、品質データをリアルタイムで可視化する。バーチャルコミッションニングに利用され、実際に設備を動かす前にラインのレイアウト変更やロボットの動作プログラムを仮想空間で検証できる
  • 軌道上デジタルツイン
    • 打ち上げられた後も、衛星からのテレメトリーデータ(姿勢、温度、電力消費など)を受信し、軌道上の衛星の状態を仮想空間上でリアルタイムに再現する。地上プラットフォームは、このリアルタイムデータを用いて、クラウドまたはエッジサーバで稼働する「軌道上デジタルツイン」を駆動する。このデジタルツインは、設計段階から得られた理想的なモデルではなく、製造上の偏差と実際の軌道上環境を統合した「真の仮想コピー」となる。

3. 統合製造実行層

  • 協同設計/開発管理(PLM/PDM)
    • クラウド型のPLM(プロダクトライフサイクル管理)システムで、設計チームがMBDモデルを基に協同作業することを可能にしている。部品表管理(BOM)や設計変更管理もここで行われ、全ての情報がMBDモデルとリンクされている
  • スマートファクトリー実行システム(MES)
    • MBDモデルから直接、工作機械のプログラム、組立作業者のための3D作業指示書、検査プログラムを生成する。IoTプラットフォームから得た実データと照合し、計画と実績の差異を管理している
  • 仮想検証とシミュレーション環境
    • MBDモデルをそのまま構造解析、熱解析、流体解析などの高度なシミュレーションにシームレスに活用できるようにしている。打ち上げ環境や宇宙環境を仮想空間で再現し「バーチャルAIT(Assemble, Integration and Test)」を実施する。これにより、物理的な試作回数を大幅に減らせる
  • サプライチェーン管理(SCM)
    • サプライヤーもこのプラットフォームの一部として組み込み、MBDモデルを共通言語として調達や進捗管理を行う。これにより、調達品質の向上とリードタイム短縮を図る
  • 基幹システム(ERP)
    • Galaxy Spaceは、衛星開発におけるプロジェクト管理の高度化を目的として、奥博思(Beijing Aobosi Software)の「PowerProject」というプロジェクト管理システムを導入している。ERPについては具体的なシステム名や導入状況は公開されていない

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

特別協賛PR
スポンサーからのお知らせPR
Pickup ContentsPR
Special SitePR
あなたにおすすめの記事PR