炭素繊維市場創出の“場”として機能する金沢工大 ICC、参加企業が見いだす意義製造業“X”探訪(3)ICC(後編)(3/4 ページ)

» 2026年02月24日 08時00分 公開
[西垣淳子, 楠和浩MONOist]

大規模な機械や検査装置+学の力――石川樹脂工業が見いだす価値

 次に、割れない食器ARAS(エイラス)で人気の石川樹脂工業を訪問した。話を聞いたのは、家業を継ぐために東京から戻ってきた専務取締役の石川勤氏だ。実は石川氏は、ICC 所長の鵜澤潔氏が以前に所属していた東京大学 艤装研究室で研究していた。そのため、鵜澤氏や、同じく東京大学から金沢工業大学に転任した影山和郎氏(金沢工業大学 高信頼理工学研究センター所長でICC顧問)などは以前からよく知っていたという。そこで、石川樹脂工業に戻った後、ICCとの連携を想定していたのかというと「当時の恩師たちが金沢工業大学に移っていたことは全く知らなかった」(石川氏)としている。

 その上でICCの価値について「大規模な機械や検査装置が使えることに尽きるのではないか」と石川氏はきっぱりと切り捨てる。

石川樹脂工業の概要

photo 石川樹脂工業の外観 出所:石川樹脂工業

 1947年創業(企業としての設立は1965年)。石川県加賀市に本社を置く樹脂製の食器雑貨、工業部品、仏具などを取り扱う樹脂メーカーだ。創業時は石川県加賀市山中温泉地域で生産されていた漆器の木地を販売していたが、その後、樹脂製漆器生産に取り組み、今では培った成形の技術力を生かしてインフラ向け工業部品など幅広い製品を展開している。


 石川樹脂工業は、もともと山中漆器の木地師だった石川氏の曾祖父が立ち上げた会社で、ニーズの高まりに応じて漆器から樹脂素材に中心を転換した。石川氏が東京から戻ったのは、合成樹脂を活用したビジネス展開と自社ブランドに、父親である代表取締役会長の石川章氏が注力し始めた時期だった。従来の下請けビジネスから、自社ブランドによるB2Cモデルに転換を図ろうとする中、最初に手掛けたのがCFRPを活用したテントのペグだった。また、地元企業のつながりから、ロボットの躯体にCFRPを使う取り組みにも参加したりしていた。

 それらの活動の中で、小松マテーレから声がかかり、熱可塑性CFRPを用いたインフラ系高強度ボルトに関する案件を手掛けた。そこで、初めてICCという場を活用したという。ICCにはさまざまな実験に必要な機器があり、研究資材もある。中小企業にとって、高額な機械や材料費を使って、新素材を開発することはかなり難しいが、それを補ってくれた存在がICCだったというわけだ。

 ただ、その後、同時に取り組んでいたARASの売り上げが拡大したため、この時取り組んでいたボルトの新規開発についてはストップしたという。ARASは「素材で世界を変えたい」という思いと「素材の力で食体験をアップデートしたい」という思いが交わって石川樹脂工業が生み出した割れない食器ブランドだ。開発に2年かかったが、現在では、ARASが売り上げの7割、利益の9割を稼いでいる主力事業となっている。

photo 石川樹脂工業のARAS[クリックで拡大] 出所:石川樹脂工業

 石川氏は「顧客の価値体験に関心があり、もともとB2Cへの関心が強かったのも成功の一因かもしれない」と自己分析する。ARASの開発に当たっては、料理をおいしくするためという目的の下、それまでの樹脂の無機質さではおいしさを表現できないと判断し、新たな素材開発から取り組んだ。自然界にあるモチーフを活用して凹凸形状を形成し、それを3Dスキャンした形状を3D CADに取り込んで、設計を行った。こうした開発手法やデジタルツールの使いこなしも、石川氏は大学で身につけていた。だからこそ、「ICCには機器や試材があるという事実のみが価値だと思う」との答えだったと受け止めた。

photo 炭素繊維のサンプルを手に話をする石川樹脂工業 専務取締役の石川勤氏

 しかし、よく話を聞いてみると、石川氏は恩師である影山氏や鵜澤氏に相談のためにICCをよく訪れるという。その理由として石川氏は「生成AIの登場によって、多くのものが簡単にできるようになったが、試作品レベルではよくても、量産しようとすると、AIに回答を期待しても解決できない問題に数多く当たる」とし、その量産に向けた課題解決のためによく相談をしているというのだ。

 「ARASの開発過程においても、量産に向けてさまざまなトライアルを繰り返したが、当初はうまくできないことが多くあった。ところが(鵜澤氏や影山氏に)悩みを伝えると、すぐに本質的な課題が返ってくる。例えば、たわみとヤング率の問題など問いの立て方や目利きの面でも、専門の研究者では次元が違う。学の底力を見た」と石川氏は説明する。

 また、同時に大学(アカデミア)と一緒に進めることで、研究開発のプロセス(どうやって問いを立て、それをどうやって解決していくか)を学ぶことができる価値が大きいという。「AI時代になっても、そこにどういう問いを立てるかという研究者の能力の重要性は変わらない。ICCが提供している価値の本質は、そういう部分にもあるのかもしれない」(石川氏)としている。

 最後に、多くの企業がICCという場において「なぜ積極的に協業しているのか」に対する考えを聞くと以下のように答えてくれた。

「炭素繊維は各企業がまだ本業にはできないところだからだ。本業では、簡単に『一緒にやろう』というのは難しい場合もある。本業にはまだできない領域だからこそ、一緒に市場を作っていくしかない。そして、将来の時間軸を見ると、今ある本業だけでも生き残れないことが分かっており、そういう危機意識を共有しているから、うまく回っているのだと思う」(石川氏)

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