AIエージェントの設計には、正確性/柔軟性/速度の3つの要素を意識したバランス設計が不可欠だが、実際には技術的に難しい側面が多く、いずれかの要素を高めようとすると他の要素が犠牲になる「トリレンマ構造」が存在している。
例えば、コールセンターで対話型のAIエージェントが求められる応答速度がテキストで10秒、会話で4秒という要件の場合に、現実では通常の流れを逸脱した事例の発生や内容の差し戻し、新たな要件が割り込むなど、さまざまな想定外の出来事が発生する。そのため、イレギュラー対応がある度にAIが再推論をする必要があり、結果的に正確性や必要な速度が失われるという問題が発生してしまう。
この問題を解決するために、日本IBMの金融業界向けのソリューションにIBMのAIエージェントソフトウェアとAIエージェントに関する専門知識と技術力を活用したソリューションアセットを開発している。これにより、割り込みや差し込みといった状況にも柔軟に対応できる。村田氏は「割り込みや差し戻しといった状況に、推論速度と正確性を犠牲にすることなく処理を実現するためには、アプリケーションの専門知識だけではなく、その領域での専門知識も必要になる。このような全体の技術を持っていることはIBMの優位性だと認識している。今後も多くの事例を増やしていく」と強調する。
2025年からは部門ごとに生成AIシステムやAIエージェントがバラバラで導入されるという「AIエージェントの野良化」についての懸念が強くなっており、顧客からも問い合わせが増えているという。村田氏は「最大のリスクはデータ侵害である。このような状況だと侵害が発生した際に適切な監査ができない、どのLLMにアクセスしたかが分からないという状態に陥ってしまう」と分析する。
日本IBMはこの課題を解決するために、統合AI基盤を製作し、数多くのアーキテクチャを用意してきた。現在では金融業や公益業、製造業といった分野で先行プロジェクトを進めているという。
また、今後のAI利用拡大によって問われることになる「デジタル主権」についての対応も進めていかなければならない。デジタル主権とは、これまでのソブリンクラウドはどこにデータが保存されているのかを明確にする「データレジデンシー」という考え方が一般的だった。これに加えて、現在ではどこで運用しているのか、どのような制限があるのか、ログや監査はあるのか、技術がオープンで選択できるかなどさまざまなものが求められるようになっている。
実際に欧州ではクラウドサービスがどの程度「主権要件」を満たしているのかの成熟度を示す「Sovereignty Effectiveness Assurance Level(SEAR、主権実効性保証レベル)」を定義し、公共業や金融業といった経済安全保障上の重要な業種においてデジタル主権に関する評価結果の提出が求められている。
このような背景からIBMは新たなソリューションとして、主権をソフトウェアそのものに組み込み、企業がデジタル主権を確実に検証して、安全な運用管理ができるように支援する「IBM Sovereign Core」を開発した。同ソフトウェアは2026年2月から先行アクセスを提供し、同年6月には一般提供の開始を予定している。
同ソフトウェアは技術のオープン性を持つという特徴上、これまで同社が買収してきた「Red Hat」や「HashiCorp」といったソフトウェアもIBM Sovereign Coreに含まれている。村田氏は「現在、ITサービスプロバイダーの方々と技術的な討議を進めている。欧州では2社、日本でも幾つかのITサービスプロバイダーと議論を開始している。IBMはAIが動く基盤をパブリッククラウドとハイブリッドクラウドでそれぞれ50%ずつに定着しており、その背景の1つがソブリンクラウドである」と述べている。
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