法改正への対応は必須だが、小野塚氏は「法律が改正されたからやるのではなく、企業の収益力向上や競争力強化につなげるために、戦略的にCLOを配置し、全体最適を進めるべきだ」と指摘する。サプライチェーンとは、調達、生産から保管、輸送、販売に至る一連の供給連鎖である。サプライチェーンマネジメント(SCM)の本質は、特定のプロセスだけの効率化ではなく、供給プロセス全体での最適化を通じて会社全体の利益を最大化することにある。
生産や調達といった部門間の壁を越えて「トータルで勝つ」判断を下すことこそが、CLOと経営陣に求められる役割である。法改正という「外圧」を好機と捉え、サプライチェーンをコストセンターから、競争優位を生み出す源泉へと変革できるかが問われている。
では、具体的にサプライチェーンの最適化をどう進めればよいのか。小野塚氏は、「現状の見える化」「目指す姿の設計」「戦略の策定」「計画と体制の構築」という4つのステップで進めるべきだと説く。
このプロセスを進める上で特に重要なポイントがある。「目指す姿の設計」において、現場の課題解決の積み上げだけでなく「全社戦略から逆算する」ことだ。競合に対する差別化戦略として、自社のサプライチェーンはどうあるべきかを描く視点が欠かせない。
もう一点、計画を実行する際の「人事評価への反映」も大事である。全体最適を進めようとすると、「小ロット生産による製造コスト増」や「在庫削減による欠品リスク」など、部門間の利害対立が必ず生じる。この壁を越えるためには、全社の収益改善目標を体系化し、各部門の貢献度を見える化すること、そして全体最適への貢献をしっかりと人事評価に反映する仕組みが不可欠となる。これらの施策の実効性を高めるためには、こうした仕組みを整えた上で、「誰が、いつまでに、何をするのか」を明確にした計画を現場まで落とし込むことが求められる。
教科書的な理論だけでなく、実際に成果を上げている「サプライチェーン先進企業」の事例を知ることは大きなヒントになる。小野塚氏は、先端技術を活用したアプローチで最適化を実現した5つのベストプラクティスを挙げた。抜粋して2社を紹介する。
1つ目は、花王だ。同社はAIを活用した高度な需要予測システムを導入している。サプライチェーン全体の実績を同システムに蓄積することで、新商品であっても販売から1週間程度で精度の高い予測を実現する。各店舗の販売状況に応じた生産/出荷量の調整に加え、営業ツールとして販促戦略にも活用している。過剰在庫と機会損失の双方を最小化し、収益を最大化している事例である。
2つ目は商用車製造のDaimler Truck(ダイムラー・トラック)だ。同社はアフターパーツの一部を3Dプリンタによる都度製造(オンデマンド製造)に切り替えた。製造単価自体はライン生産より高くなるが、拠点間輸送や保管のコストを圧縮することで、全体費用の最適化を図っている。
これらの事例に共通するのは、「物流費の削減」だけを目的にしていない点だ。在庫を減らす、売り上げを最大化する、スピードを上げる――といった経営課題を解決する手段として、サプライチェーンを変革している。「サプライチェーンの最適化とは、足元の課題解決にとどまらず、会社全体の戦略として『どうサプライチェーンで勝っていくか』を主軸に考えることである」(小野塚氏)
これはもはや、物流現場やロジスティクス部門単独で完遂できるタスクではない。全体最適には、製造、営業、調達といった部門間のトレードオフ調整が必ず発生するからだ。だからこそ、経営視点を持つCLO(物流統括管理者)と経営陣が、会社全体を捉えた上で意思決定を行い、強いリーダーシップで推進していく必要がある。
2026年のCLO義務化を単なる規制対応で終わらせるか、自社の競争力を再定義する契機とするか。経営者の覚悟が問われている。
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