社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第17回では、ODMに関する筆者のエピソードを取り上げる。
ODM(設計製造委託)に関する筆者のエピソードを【前編】【後編】に分けて紹介する。ここでの内容には、筆者自身の不手際やODMメーカーが抱える問題点などが含まれている。実体験に基づく内容であるため、これからODMで自社製品を作ろうとするスタートアップにとって参考になるはずだ。
今回紹介する製品(ODMの対象となった製品)は、小型カメラを備えたハンディータイプの検査装置である。ある中小企業がこの製品を考案し、筆者はその企業からODMメーカーを活用した製品化を委託された。設計者のいないこの企業にとって、設計に関わる技術的な内容をODMメーカーと直接やりとりするのはハードルが高く、筆者が間に入り設計業務を進めることになった。
こうして筆者は、ODMメーカーの選定から仕様書の作成、量産に至るまでを、伴走する形で支援していった。以上が、今回紹介するエピソードの概略である。
ODMメーカーとの最初の打ち合わせでは、対象となる検査装置の概要と、既に見積もり時に提出してあった仕様書に基づき、詳細を伝えた。そして、次回の打ち合わせでは、外装部品を含む機構部品、基板、LCDなどの配置を提案してもらうことになっていた。
そこで筆者は、「想定している部品を一覧にした部品表も併せて提出してほしい」と依頼した。しかし一般的に、ODMメーカーは部品表を提出したがらない傾向があり、このときも例外ではなく、提出を断られてしまった。
とはいえ、部品表がないままでは後から問題が発生しやすいことを、筆者はこれまでの経験からよく理解していた。だからこそ、あえて部品表の提出を求めたのだった。
案の定、設計が進むにつれて部品点数が増え、ODMメーカーから「量産する製品の引き渡し価格をアップしてほしい」と要望された。引き渡し価格については、既に双方で合意していた。しかし、ODMメーカーは「最初の見積もりは、製品内部の詳細な部品配置や構造を考慮していない仮の見積もりだった」と主張し、さらに「受注を獲得するために多少安く見積もった」と言ってきたのだ。
見積もりは、仕様書の内容を踏まえ、内部部品の配置/構造を想定した上で算出すべきである。また、受注を得るために意図的に安価な見積もりを提示し、受注後に引き上げを図るようなことがあってはならない。
こちらとしては受け入れがたい要望であったが、ODMメーカーとは今後も長く付き合うことになる。量産が継続すれば、今後4年以上(設計1年+量産3年)にわたる関係となる。そのため、双方の妥協点を見いだし、価格の引き上げをある程度認めざるを得なかった。
そこで筆者は、「当初の見積もりから追加された部品の名称とそのコストを、部品表とともに提出してほしい」と依頼した。どの部品が追加されたのか分からなければ、何に対して追加コストを支払うのか判断できないからである。しかし、「部品表は提出しない」というODMメーカーの姿勢は変わらなかった。
このままでは合意に至れないと判断し、あらためて「部品表を提出してくれなければ価格アップは認められない」と丁寧に説明した結果、ようやく部品表が提出され、追加部品とそのコストが明確になった。
今度は、ODMメーカーが金型費を追加請求してきた。理由は、前述の追加部品の中に金型が必要な樹脂部品が含まれていたためである。追加部品のコストについては、製品の販売価格から利益を削るなどして調整すれば何とか対応できる。しかし、数百万円に上る金型費を一括で支払うことは、こちらとしては到底受け入れがたい要求であった。
とはいえ、設計作業は日々進行しており、この件についても双方の妥協点を見いだすしかなかった。最終的には、2つの部品をペア取り(1つの金型で2つの部品を成形)にしたり、製品内部にある数点の部品の量産を3Dプリンタに置き換えたりして、金型費の削減を図った。ただし、金型で成形した部品に比べ、3Dプリンタで作製した部品は高価になる。この差額も、結果的には製品の引き渡し価格に転嫁されることとなった。
さらに、この対応により別の問題も発生した。3Dプリンタでこれらの部品を量産してくれるメーカーがなかなか見つからなかったのだ。3Dプリンタによる部品製作を請け負う企業はあっても、継続的に数年間にわたり、量産部品として対応してくれるメーカーは非常に少ないのが現状だ。
部品表を提出してもらえないことによって生じる他の問題点を2つ紹介する。
1つ目は、販売後の修理部品の選定ができないことだ。製品がユーザーの元で故障した際には、修理のために部品交換が必要になるケースがある。これに備え、どの部品を交換対象とするのか、またその部品コストをいくらに設定するのかといった項目は、製品の販売前にあらかじめ決めておかなければならない。これは、部品表がなければ決められない。
2つ目は、設計過程におけるODMメーカーとの会話や、メール/議事録の中で頻繁に登場する部品名称が、担当者やタイミングによって表記や呼び方がバラバラになってしまう点だ。このような状況では、互いに何の話をしているのか分からなくなり、意思疎通に時間がかかる。結果として、誤解が生じることも少なくない。
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