物流システム部は、このような各ダッシュボードの活用により、「意思決定の迅速化」と「データの統一化」で大きなメリットを感じているという。
特に効果を実感したのは、2025年1月の米国新トランプ政権発足に伴う、関税政策の不確実性に直面した際だ。売り上げの約8割を海外が占める同社にとっては、関税変動は深刻なリスクとなる。システム導入前は、非常事態発生後にデータ収集と分析を行っていたが、現在は常に最新データが可視化された環境が整っている。関税変動の可能性が出た際も、システムに蓄積された海外輸送リードタイムや実績データを基に、部全体で「いつまでに出荷すべきか」「どの在庫を優先的に動かすか」といった戦略的判断を迅速に下すことができた。
業務効率も劇的に向上した。各担当者が行っていた集計作業が不要となったことで、物流システム部全体で「年間約200時間」の工数削減を達成した。担当者ごとのデータ処理の差異が解消したことで、データの品質と信頼性も向上したという。
さらに、自動でグラフ化されたデータを基に、「次に何をすべきか」という分析とアクションの検討に即座に着手できるようになった。この循環は、実務担当者から「次はこういうダッシュボードがほしい」という新たな提案が生まれる土壌となり、物流情報基盤のさらなる拡大へとつながっている。
ヤマハ 物流システム部部長の中川雅仁氏は、同社が目指す「物流コントロールタワー」の構想を次のように語る。
「物流部門が持つデータを起点に、調達/生産から販売を含む、『今起こっていること』に対する迅速なアクションと、将来を見据えた全体最適化に寄与することを目指す」(中川氏)
同部は、コロナ禍や地政学リスクの変化など、「当たり前が当たり前でなくなる」現実を目の当たりにしてきた。システムによる状況の可視化により、物流停止といった致命的な事態を回避するための迅速な対応が可能になった。この可視化を第1歩目と捉え、物流情報基盤を起点に、ヤマハのサプライチェーン戦略企画の武器としたい考えだ。
この構想の実現に向け、部門間連携も既に始まっている。ヤマハではマーケティング、営業、生産といった他部門でもBIツールを導入している。現在は、物流部門から営業部門へ海上輸送のリードタイムを共有するといった部分的な連携にとどまるが、今後は物流情報を他部署と相互に活用し、サプライチェーンの最適化につなげていく計画である。
また、本社物流システム部が集約している各販売会社の物流業務支援も検討中だ。リソースが限られる各販社に対し、本社主導でデータに基づく有益な情報を共有し、グループ全体の物流効率化をサポートする。
「今後はAI(人工知能)の活用や海外拠点への展開も視野に入れ、データドリブンな『物流コントロールタワー』の実現を加速させていく」と中川氏は語る。ヤマハ 物流システム部の挑戦は、不確実な時代においても確実に世界へ音楽を届け続けるための、揺るぎない基盤となりつつある。
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