東京大学らは、液体相変化パウチアクチュエーターの複雑な履歴依存挙動をAIで学習する手法を開発した。AI技術「リザバーコンピューティング」を応用した独自のフレームワークを用いている。
東京大学は2025年10月20日、液体相変化パウチアクチュエーターの複雑な履歴依存挙動(ヒステリシス)をAI(人工知能)で学習する手法を開発したと発表した。AI技術「リザバーコンピューティング」を応用した独自のフレームワーク「PhysRes(Physical Hysteretic Reservoir)」を用い、これまで制御困難だった非線形ダイナミクスを予測可能にした。テキサス大学およびリバプール大学との共同研究によるものだ。
液体相変化パウチアクチュエーターは、内部の液体を加熱、気化して動作する柔軟な装置だ。ソフトロボットの駆動装置として有望視されている。過去の状態に依存するため制御が難しかったが、PhysResはこの履歴依存性を「情報」として活用。アクチュエーターの表面変形をモーションキャプチャーで取得し、AIモデルに時系列の位置座標データとして入力した。
まず、入力された全ての座標データを連結し、「状態行列」を構築。この行列の前半部分(現在の状態)を用いて、後半部分(未来の状態)を予測するようにモデルを訓練する。最終的に、この「状態」を入力として、アクチュエーターの振る舞いを支配する抽象的な内部状態(潜在空間)を、線形回帰という手法によってモデルを学習する。
開発されたモデルは、将来の変形状態を高精度に予測することに成功した。研究チームは、この技術を搭載したソフトロボットグリッパーを試作し、ティッシュやポテトチップスを損傷なく把持。物理的ヒステリシスをAIの「計算資源」として利用する新たな発想を実証した。
今後は、触覚情報の統合や、素材自体が環境を認識し、学習および判断する「計算する素材」への応用など、身体性を持つロボット知能への展開を進めていく。
リザバーAIが操る「絶対に勝てないじゃんけん」、TDKがCEATEC2025で披露
色素増感型太陽電池を応用した「自己発電型」光電子シナプス素子を開発
そっと“鶴”もつかめる、早大発3軸触覚センサーでロボットハンドに触感
バイタル情報を無線でリアルタイム送信できる柔軟なセンサーパッチを開発
スピン波を用いた物理リザバー計算機における高性能化の条件を解明
新しい駆動の在り方、ソフトロボット学が切り開く世界Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
組み込み開発の記事ランキング
コーナーリンク
よく読まれている編集記者コラム