品質マネジメントに関する国際規格であるISO9000シリーズが「製品やサービスの品質」を対象とするのに対し、アセットマネジメントに関するISO55000シリーズは「資産とその価値」を対象とします。
もともとは社会インフラを念頭に策定された規格ではありますが、製造業の基盤である工場インフラにも応用できる構造を持っています。例えば、下図はISO55001における資産(アセット)の活動、システム、資産そのものを構造的に整理したものです。
この構造に沿って、設備保全における具体例を示します。
高品質な製品の安定供給を通じて社会に貢献する。具体的には、生産能力を前年比20%向上させ、不良品発生率を0.1%以下に抑える。
故障してから修理する事後保全から故障する前にメンテナンスする「予防保全」への投資/稼働比率を上げる。また、老朽化した設備の一部をより生産能力の高い設備に置き換える。これにより、全体の投資コストは前年比5%増以下に抑え、工場全体の突発停止の頻度と時間を30%削減する。
事後保全/予防保全/設備ごとの稼働を数字で可視化するための環境を用意する。これまでExcelでバラバラに管理していた管理帳票をつなげて、稼働時間とコストを可視化の指標とする。事後保全の頻度やコストが最も高いボトルネックから改善していく。
生産設備、検査装置、消耗品、検査/修理の人員の記録をデータに残していく。分析対策を想定し、ロケーション(工場単位またはものづくりライン単位)、設備、部品の粒度で分類集計できる構造としてデータの記録粒度をそろえる。
このような構造整理をしておくことで、仮にプロジェクトの進捗が思わしくないときのボトルネックの検出も早くなり、アセットマネジメントの成功確率が各段に上がります。
ISO55000に基づく、あるいはそれに準じた枠組みでデータを整理すれば、その整理された情報は「共通言語」として活用できるようになります。これにより、社内だけでなくサプライチェーンや業界全体での資産価値の向上が可能になります。
このような構造整理の仕方が「分かっている」企業同士が協業することによって、より高い資産価値を、より速く生み出せるようになると考えることができます。例えば、修理部品の在庫が足りず、他工場や同業種のエンジニアに相談をされた経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
アセットマネジメントの枠組みが共通化されている企業間であれば、部品だけでなく、設備、人材などもその価値を最大限に引き出すことができるようになります。
アセットマネジメントシステムの中で、生成AIはデータ活用を大幅に効率化します。前述した入力効率化や表記揺れ対策などの現場負担の軽減にも寄与します。膨大な保全履歴からの最適コストパターンの抽出、関係部署間での重要知識の共有などにも寄与します。
つまり、生成AIは「アセットマネジメントに準じたプロセス改革の加速装置」となります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Factory Automationの記事ランキング
コーナーリンク