おもちゃ化から始めるモノづくり――ICOMAの独自メソッドで生まれた「tatamo!」ITmedia Virtual EXPO 2025夏 講演レポート(2/2 ページ)

» 2025年10月21日 08時00分 公開
[長町基MONOist]
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「おもちゃ化」から広がる新たな発想

 TATAMEL BIKEを製品化した経験を基に、生駒氏は「TOYBOX」というデザインメソッドを体系化した。

ICOMAが提唱する独自メソッド「TOYBOX」のイメージ ICOMAが提唱する独自メソッド「TOYBOX」のイメージ[クリックで拡大] 出所:ICOMA

 「おもちゃのこころで、ミライをつくる」というキャッチコピーの下で展開されるこのメソッドは、アイデアを実際に3Dプリンタなどで形にして“おもちゃ化”し、手で触れ、遊びながらデザインや仕様を突き詰めていくアプローチである。生駒氏は「おもちゃから発想を引き出し、そのアイデアを成熟させ、自社製品として形にすることで新しいものが生まれる」と語る。

 このTOYBOXのアプローチには、いくつかの明確なメリットがある。まず試作コストの削減である。特にモビリティ分野の試作は大規模かつ高額になりやすく、何度もやり直すことは難しい。だが、おもちゃサイズであれば、3Dプリンタを用いた低コストの製作が可能で、必要に応じて気兼ねなく作り直せる。さらに、小型の試作を複数用意し、関係者一人一人に配布して議論のベースとすることもできる。

 次に、関係者の本音を引き出しやすい点がある。完成度の高い試作が目の前にあると、意見を述べることにためらいが生じる場合が多い。しかし、おもちゃであれば気軽に感想やアイデアを出せる雰囲気が生まれ、自由な発想につながる。大人だけでなく、子どもたちの率直な発想を取り入れることも可能で、製品開発に新たな視点を加えることができる。

 さらに、利用シーンのイメージを共有しやすいことも大きな利点である。どれほどデザイン性が高く先進的な技術を備えていたとしても、実際の利用場面と結び付かなければ魅力は半減する。おもちゃを使った遊びの中でプロダクトをどのように使うのかを想像しやすくなり、ターゲットユーザーがどう利用するかという視点が自然と浮かび上がってくる。

 最後に、遊び込みによって発想がさらに広がっていく点が挙げられる。開発中のプロダクトを世に送り出すこと自体が第一の目的ではあるが、その過程で生まれたおもちゃもまた、ブランディングやマーケティングに生かすことができる。実際、ICOMAは12分の1スケールのTATAMEL BIKEをカプセルトイとして商品化し、新たなビジネスの広がりを生み出している。また、実際の製品につながるおもちゃを設計するプロセスは教育効果も高く、技能研修や若手人材の育成にも役立つ。ICOMA自身も、おもちゃづくりを人材育成の一環として取り入れている。

「tatamo!」の開発と今後の展開

 こうしたTOYBOXのメソッドを基に開発されたのが、新たなコンセプトであるtatamo!だ。

“ロボット×モビリティ×おもちゃ”を体現する次世代コンセプトモデル「tatamo!」 “ロボット×モビリティ×おもちゃ”を体現する次世代コンセプトモデル「tatamo!」[クリックで拡大] 出所:ICOMA

 tatamo!はTATAMEL BIKEよりもさらに小型で軽量化されており、コインロッカーにも収まるサイズを実現している。一部の部品は取り外して持ち運ぶことが可能であり、都市生活における機動性を意識した設計となっている。開発プロセスは、まずおもちゃを作り、その段階で自由にアイデアを出し合うことから始まった。その後、フレーム設計やCG化などの作業を分担し、最終的に統合してコンセプトモデルを完成させた。

 このコンセプトモデルは2025年4月、イタリア・ミラノで開催された世界最大級のデザインイベント「ミラノデザインウィーク」の併設展「サローネサテリテ」で披露され、大きな注目を集めた。

 ICOMAは今後もTATAMEL BIKEを事業の柱として位置付け、オンラインや一部店舗を通じて販売を強化していく方針だ。同時に、“ロボット×モビリティ×おもちゃ”の融合を体現するtatamo!の開発も進める。また、企業や地域との協業によるソリューション事業や、ワークショップといった活動にも積極的に取り組んでいくという。

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