この中で、前列中央のコンソール群の真ん中に「INS CONNING」専用のMFDを配置する。INS/CONNING機能は、統合航海システムの中核として多様なデータを一元的に提供する。船体運動に関する情報では、船速や対地速力、針路、舵角、さらには回頭率といったデータをリアルタイムで表示する。航海士は船の挙動を直感的に把握できる。
推進/操縦系統の情報では、主機の回転数、スラスターの出力、ポッド推進装置の角度などを統合表示し、操船中の推進力配分や姿勢制御の判断を支援する。さらに、航海関連センサーからの入力として、ジャイロコンパスによる方位、GPSによる位置、ログによる航走距離や速度、AIS(自動船舶識別システム)による他船情報などが加わり、多様なセンサーのデータを1画面で参照できる。操船関連のアラームやステータス情報も統合しており、操船機器やセンサーに異常が生じた場合や、設定した限界値に達した場合には即座に警告を発する。航海士は状況の変化を迅速に把握し、適切な対応を取ることが可能になる。
中央に据えられたINS CONNING用MFDは、ブリッジ全体の「共通認識の基点」として機能する。当直船員の誰もが同じデータを即座に参照できることで発令と操作の食い違いを防ぎ、それはヒューマンエラー低減に直結する。その意味において、ブリッジにおける最重要コンポーネントの一つと位置付けられる。
飛鳥IIIのブリッジ前列左舷側のコンソール群のうち、最も中央寄りに「SMS」用MFDを配置している。ブリッジ中央のINS CONNINGが「船の挙動」を可視化する装置だとすれば、左舷側のSMSコンソールは「船の安全状態」を統括的に監視する装置といえる。
NACOS Platinumに組み込まれるSMS機能は、安全管理システム(Safety Management System)の一部として、船内のPA/GA(警報/非常放送)、火災検知、ブリッジナビゲーションワッチアラーム(BNWAS)などを一元管理できるよう設計されている。このMFDには、船内安全に関わるあらゆるシステムが統合されており、航海士はここから船の安全状態を即座に把握して必要に応じて迅速な対応を行う。
SMSコンソールが提供する情報は多層的で、火災や浸水といった船内非常事態の警報はもちろん、ガス検知やドア/ハッチ開閉状態、消火システムの作動状況といった防災系統のモニタリングも包括する。また、PA/GAと連動することで、乗客と乗員への避難指示や緊急放送を直接制御できる。さらにBNWASの監視により、当直航海士が規定通りに航海ワッチを実施しているかも確認でき、万一の意識喪失や操作放棄時には自動的に警告を発する仕組みとなっている。
飛鳥IIIのブリッジ左舷前列には、SMS専用コンソールと並んで、水密隔壁(Watertight Door)操作卓が設置されている。これは船内区画の防水機能を集中制御するためのもので、緊急時には一斉閉鎖や個別制御によって浸水拡大を防止する中核的な装置である。船体の安全性を維持する上で極めて重要なシステムであり、ブリッジから即座に操作できるよう配置されている点に、豪華客船ならではの冗長性と安全設計思想が表れている。
同区画には、インマルサット衛星通信装置、VHF(超短波)無線機、MF(中波)/HF(短波)通信装置、双方向通信卓といった外部と内部の通信手段も集中的に備えている。インマルサットは船舶衛星通信の国際標準であり、船陸間の緊急通報やデータ通信を担う。VHFやMF/HFの無線機は沿岸航行から外洋航行まで幅広い通信レンジをカバーし、双方向通信卓は出入港時における港湾との意思伝達の他、海難で救助船艇や航空機とのコミュニケーション手段にもなる。これらの設備をSMSや水密隔壁操作卓と隣接して配置することで、航海士は安全管理と通信連絡を一体的に扱うことができ、異常事態における即応性を高めることにつながるといえる。
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