OECDでは貧困に関する指標として、貧困ギャップ率(Poverty gap ratio)と呼ばれる指標も集計、公表されています。
貧困ギャップ率とは、貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)を下回る貧困状態の人の所得平均値が、どれだけ貧困線を下回っているかという割合を示します。
この数値が高いほど、貧困状態の人の貧困度合いが高いことになります。相対的貧困率が貧困の人の多さを表すのに対して、貧困ギャップ率は貧困の度合いの深さを表す指標とされます。
貧困ギャップ率についても、まずは推移から見てみましょう。図6が主要先進国の貧困ギャップ率の推移です。
各国で30〜45%程度で推移しているようですが、ドイツとフランスが比較的低い水準のようです。日本(青)は2000年代は33%程度でしたが、徐々に上昇傾向が続いており、2021年には39.3%と主要先進国の中でも高い水準に達しています。
一方で、韓国は日本よりも高い水準から徐々に低下し、直近ではかなり低い水準となっています。
図7が2021年の貧困ギャップ率の国際比較です。再分配後の可処分所得における数値となります。
日本は39.3%でOECD32カ国中5番目、G7でも英国に次いで2番目とかなり高い水準となっています。日本は相対的貧困率が高いだけでなく、貧困ギャップ率も高い水準となっています。
今回はOECDの統計データから、貧困に関する指標の国際比較を紹介しました。他国と比較することで、日本の状態が相対的に把握できますね。
日本の現役世代については、再分配前は先進国の中でも相対的貧困率が低い方でしたが、再分配後の可処分所得では高い方となっています。
再分配により、相対的に困窮する人の割合は改善してはいますが、国際的に見ればその改善度合いは低くなります。他国はより効果的な取り組みを進めているため、日本は相対的にみれば再分配後の貧困率が高い方になっているのです。さらに貧困の深刻さを表す貧困ギャップ率もかなり高いことから、困窮する人が多く、その度合いも深いという特徴があるようです。
以前紹介した所得格差でも、再分配前では先進国の中で低い方でしたが、再分配後は高めの水準となっていました。日本の現役世代では、再分配による格差と貧困の是正効果が低いという特徴があるようです。
日本では働く人の給与格差が小さく、失業率が低いのも特徴ですが、給与水準、財産所得、再分配、失業率などを総合的に所得の水準に反映された等価可処分所得で見ると、先進国の中でも非常に低い水準です。
再分配後の可処分所得の中で、人々は消費や貯蓄をします。可処分所得が少なく、貧困率が高いということは、消費や貯蓄に回せるお金が少なく、生活に余裕のない層が一定層存在することになります。
貧困率が改善すると、その分だけ消費が増え、より多くの人がより豊かな生活を送れる可能性があるともいえそうです。今回の統計データを見ると、日本はその余地が大きいようにも感じられるのではないでしょうか。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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