阪神・淡路大震災から30年、災害支援ロボコン「レスコン」の現在地ロボットイベントレポート(3/4 ページ)

» 2025年08月26日 08時00分 公開
[松永弥生MONOist]

レスコンの目指すところ

 レスコンは、単なるロボットコンテストではない。背景には、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災がある。6000人以上の命が奪われたこの震災では、建物倒壊による圧死や閉じ込め、火災が多数発生した。救助が求められた現場は、人力では到達が困難で、二次災害の危険が高いエリアも少なくなかった。

 今回のレスコンは、阪神・淡路大震災から30年、そして同コンテストの初開催から25周年という大きな節目の年の開催となった。

レスコン25年の歩み レスコン25年の歩み[クリックで拡大] 出所:レスキューロボットコンテスト実行委員会

 レスコンは「同じ悲しみを繰り返さない」という思いを胸に、防災/減災のための技術開発と人材育成、啓蒙活動として続けられてきた。

 審査員の1人はこう話す。「競技用ロボットを作るだけなら、速さや力だけを追求すればよい。でもレスコンは違う。自分が救助される立場になったら、どうしてほしいか――そこまで考えた設計を評価する」。

 この哲学が、参加者の技術開発にも大きな影響を与えている。例えば、頭部と全身を守るエアクッション、搬送時に体勢が崩れないアーム構造、衝撃を吸収するクッションタイヤ。こうした工夫は、単なる得点稼ぎではなく、実際の被災者を想定した配慮から生まれている。

ロボットのボディーに「危険」を知らせる表示 ロボットのボディーに「危険」を知らせる表示。競技には必要がないが、実際の被災現場では重要な情報となるだろう[クリックで拡大]

 さらにレスコンは、人材育成の場としても重要な役割を果たしている。参加者は高専生や大学生、社会人エンジニア、ロボット研究者など多様だ。ロボット設計やプログラミングだけでなく、チームでの役割分担、限られた時間内での課題解決、そして競技後のフィードバックを通じて実践的な力を磨く。過去の参加者が卒業後に運営スタッフや審査員として戻ってくる文化は、この大会が“人を育てる場”であることを物語っている。

ダミヤン制作チームの打ち合わせ風景 ダミヤン制作チームの打ち合わせ風景[クリックで拡大]
運営スタッフには過去の出場者も多く参加している 運営スタッフには過去の出場者も多く参加している[クリックで拡大]

 レスコンの取り組みは教育現場にも波及している。高専や大学の授業、研究テーマとして競技課題を扱う学校もあり、防災教育と工学教育が結び付く貴重な教材となっている。これは「現場のリアルを教材にする」というレスコンの大きな強みだ。机上の知識ではなく、実際に動くロボットを作り、試し、改善するというサイクルを体験することで、参加者は技術者としての自信と責任感を身につける。

 これまでの25年という年月の中で、レスコンは災害時の救助活動をリアルに再現し、未来のエンジニアたちに挑戦の場を提供し続けてきた。そこには、技術の進歩だけでなく、「人を助けるためのやさしさ」を育むという、他のロボコンにはない特別な価値がある。

レスコン2025の本選に出場した14チーム レスコン2025の本選に出場した14チーム[クリックで拡大]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.