ビッグテック企業は米国のデジタルヘルスエコシステムを変えるか海外医療技術トレンド(122)(2/3 ページ)

» 2025年08月14日 06時00分 公開
[笹原英司MONOist]

医療IT認証プログラムの要件緩和措置を発表

 2025年6月30日、ASTP/ONCは、「リアルワールドテスト条件および認証維持要件: 執行裁量通知」(関連情報)を発表した。これは、米国大統領のドナルド・トランプ氏が2025年1月31日に発出した大統領令14192号「規制緩和による繁栄の解放(Unleashing Prosperity Through Deregulation)」(関連情報)を受けて、ASTP/ONCが、将来の規制緩和の可能性を念頭に、規制対象となる組織の負担やコストを削減できるよう、特定の規制要件について法令の執行裁量を行使することを検討した成果だとしている。

 従来は、21世紀治療法に基づく改正公衆衛生法で、ONCの医療IT認証プログラムにおける「認証条件および維持条件」として、開発された医療IT製品が市販を想定する現実の環境下において相互運用性のテストを成功させることを義務付けていた。その中で、21世紀治療法最終規則(85 FR 25768-25775)において、以下の認証基準に該当する医療IT製品について、リアルワールドテスト要件を適用することが確定していた。

  • §170.315(b):ケアコーディネーションに関する基準
  • §170.315(c)(1)〜(3):臨床品質指標に関する基準
  • §170.315(e)(1):情報の閲覧、ダウンロード、第三者への送信に関する基準
  • §170.315(f):公衆衛生に関する基準
  • §170.315(g)(7)〜(10):アプリケーションプログラミングインタフェース(API)に関する基準
  • §170.315(h):通信手段およびその他プロトコルに関する基準

 これらの認証基準に関して、開発者は連邦規則集(CFR)§170.405(b)(1)および(2)に従って、毎年のテスト計画を提出し、リアルワールドテスト結果を報告することが求められていた。

 今回ASTP/ONCが発表した通知では、以下のような執行裁量の行使を通じて、医療IT認証プログラムの要件を緩和するとしている。

  • [2025年(暦年)に関して]
    1. ASTP/ONCは、45 CFR 170.405(b)(1)に準拠しないことのみに起因する非適合事項について、45 CFR 170.580 に基づく直接審査権を行使しない。つまり、45 CFR 170.405(a)に記載された認証基準の1つ以上に認証された医療ITモジュールを持つ開発者は、2026年のリアルワールドテストに向けたテスト計画をONC認定認証機関(ONC-ACB)に提出する必要がない
    2. ASTP/ONCは、ONC-ACBが45 CFR 170.523(p)(1)および(3)に従わなかったと結論付けたり、170.560(a)の違反と見なしたり、170.565に基づく執行措置を取ったりはしない。これは、ONC-ACBが2026年の計画を審査してASTP/ONCに提出しなかった場合にも適用される
  • [2026年(暦年)に関して]
    1. ASTP/ONCは、45 CFR 170.405(b)(2)に準拠しないことのみに起因する非適合事項について、原則として45 CFR 170.580 に基づく直接審査権を行使しない。ただし、45 CFR 170.315(g)(7)〜(10)に記載された認証基準に関して認証された医療ITモジュールに関しては例外となる。このため、2024年8月31日現在で(g)(7)〜(10)の基準に認証されている開発者は、2025年(暦年)のテスト結果報告書を2026年3月までにONC-ACBに提出することが期待される
    2. ASTP/ONCは、ONC-ACBが適用される医療IT開発者の結果報告書を審査/確認しなかったとしても、45 CFR 170.523(p)(2)および(3)の不履行と見なしたり、170.560(a)の違反と認定したり、170.565 に基づく執行措置を取ったりはしない。ただし、45 CFR 170.315(g)(7)〜(10)に認証されたモジュールに関しては除く

 今回の通知による執行裁量は即時発効し、2026年12月31日まで、もしくはHHSが規制緩和措置を完了して45 CFR 170.405および170.523(p)の改訂を行うまで、いずれか早い方が適用されるとしている。

FHIRとも連動する保健医療情報共有規格USCDIの変更

 本連載第111回で、米国相互運用性向けコアデータ(USCDI)標準規格第4版(関連情報、PDF)および第5版(関連情報、PDF)について触れたが、ASTP/ONCは、2025年7月24日にUSCDI第6版(関連情報、PDF)を公開した。ASTP/ONCは、2025年9月29日までの間、USCDI第6版に対するフィードバックを募集している。

 USCDIは、電子保健情報へのアクセス/交換/利用の基盤を構築する標準規格であり、全国規模での相互運用可能な保健情報交換の実現を目的としている。そしてUSCDIは、データ要素を共通のテーマに基づいて「データクラス」に分類し、データ交換の基盤として相互運用性を実現するための標準化されたデータ要素のセットを提供している。ただし、これらの要素がどのように、またはどの文脈で使用/交換されるかについて制限はない。USCDIは、臨床や技術、政策の変化に対応するために、毎年更新され、1月にドラフト版、7月に最終版が公開されるスケジュールになっている。

 ASTP/ONCが提供する標準規格バージョン進化プロセス(SVAP)は、医療IT認証プログラムに参加する企業が、ASTP/ONCの標準規格や実装仕様の新しいバージョンを製品に任意で使用できる仕組みであり、新しいUSCDIバージョンも含まれる。

 またUSCDIは、ASTP/ONCが展開するUSCDI+プログラムにおいて開発されるデータセットの基盤としても機能している。 このプログラムでは、特定の制度的/ユースケース要件を満たすために、USCDIに対する拡張項目が特定される。USCDI第6版では、以下のような項目が追加されている。

  • 固有医療機器識別子
  • 持ち運び可能な医療指示書
  • 施設住所
  • ケアプラン
  • 発症日
  • 家族の健康履歴

 USCDIは、国際的な医療データ交換の標準規格であるHL7 FHIRを米国の医療制度に適用させたUS Core実装ガイドとの間で、相互運用性を維持できるよう整合性を図っている。本連載第116回で取り上げた欧州保健データスペース(EHDS)や日本の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)でも、HL7 FHIRを採用した医療情報共有施策を推進しているが、プロファイルのレベルでは各国/地域固有のルールが設定/運用されており、実務レベルでグローバルな相互運用性を確保するためには、追加作業や費用が必要になる。

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