ソニーが“生地”を開発? 着るだけでリフレッシュする「R WEAR」とは何か小寺信良が見た革新製品の舞台裏(36)(3/3 ページ)

» 2025年08月04日 07時00分 公開
[小寺信良MONOist]
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これまでの常識に当てはまらないウェア

小寺 ウェアが黒なのは、やはり炭由来だからですか。

山本氏 おっしゃる通りで、今は黒しか売っていません。この生地自体が特殊な構造をしていて、2枚合わせの生地になってます。肌に触れる裏面は、レーヨン素材を使っています。レーヨン素材は、水分や汗の吸収性に優れた素材なですが、そこにトリポーラスをたくさん練り込んでいます。

 一方、表面はポリエステルメッシュになっており、吸った水分を逃がす特殊構造になっています。日本の生地工場で特別に作ってもらっているのですが、糸の段階からトリポーラスを練り込んでいるので真っ黒になってしまいます。

photo 2枚合わせの生地で快適プラス血行促進を実現する構造[クリックで拡大] 出所:サプリム

 生地開発の過程で、カラーバリエーションとして白も作ってみたんですが、裏面の黒が強すぎて、白のはずがグレーになってしまうことがありました。そうであれば、まずは黒に集中するということを決めています。

 逆にこの黒がどれだけ黒いのかというところですが、「L値」という暗さを表す指標があり、市販されているナイロンパーカやデニムなど、さまざまな服を買ってきて測定してみました。低いほど暗いということになりますが、市販製品の多くが10〜19という値だったのに対し、われわれの生地は裏面で3.9、表面で5.8と、本当に暗い黒だということが分かりました。

photophoto 夏向けとして開発されたドライメッシュのリカバリーTシャツ(左)とリカバリーハーフパンツ(右)[クリックで拡大] 出所:サプリム

小寺 黒い服は何度も洗濯したり、外に干したりしてると、色あせることもあると思いますが、耐久性などは大丈夫なのでしょうか。

山本氏 われわれのものは糸の段階から染色しているので、非常に色落ちがしにくいものになっています。これも50回の洗濯試験をやりましたが、一般的な服は50回洗うと色落ちするものが多かったですが、われわれのものは色落ちが非常に少ないという結果になりました。

小寺 今までの話で興味を持つ人もたくさんいると思うのですが、販売チャンネルとしてはECサイトのみで、リアル店舗では買えないのでしょうか。

山本氏 実は期間限定ですが、六本木 蔦屋書店さんと、高島屋の大阪店さんに置かせていただく予定です。あとは地方も含め、百貨店さんを中心に拡大していく予定になっています。

 最近はリカバリーウェアの専門コーナーがあったりもしますし、直近ではリカバリー系のイベントや、催事場みたいなところで販売したりするケースもありますので、徐々に広げていきたいと考えています。

日本国内で製造する強み

小寺 R WEARの製造に関しては、日本国内で製造しているところもポイントだと思いますが、日本生産にこだわった理由にはどういうところがあるんでしょうか。

山本氏 いいものを作り出すための商品開発にはトライアンドエラーが付き物です。その対応をクイックにし、コミュニケーションを密に行える点では日本の工場と組むことが重要でした。

 ある程度製品が固まればコストを見て中国生産で広げることもあるかもしれませんが、今はまだ、いいものにブラッシュアップしていく段階だと思っていますので、そういうところで日本の工場と緊密に連携を取ってさまざまな試行錯誤を重ねています。

小寺氏 やはり一般医療機器だから、ちゃんと管理の目が行き届く意味でも日本企業と組む方がメリットがあるということですね。本日はありがとうございました。


 ソニー開発生地によるリカバリーウェアだから普通じゃないとは思っていたが、まさかリチウムイオン電池からモミガラを経由して消臭、遠赤外線へと発展するとは思わなかった。かなり長い紆余曲折を経て開発された製品である。

 筆者も実際に部屋着として毎日着ているが、何日たっても全く臭わない。ただ汚れないわけではないので、定期的な洗濯は必要である。洗濯しても消臭力や遠赤外線効果が落ちることはないし、退色にも強い。一般のアパレルと比べれば一般医療機器なのでそれなりの値段はするが、長く着られることで元が取れると考えれば、それほど高い買い物でもないのかもしれない。個人的には、頻繁に着替えが難しい入院着として、レンタルでの需要もあるのかなとも思った。

 これからますます、寝苦しい季節になっていく。睡眠が取れないことで疲労がたまっていくと、サプリやドリンクで元気を絞り出しても、それは単に元気の前借りであって、どこかで限界がくる。そうなる前にテクノロジーの塊であるリカバリーウェアで対処するというのが、現代の処方箋ということになるかもしれない。

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筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

ライター/コラムニスト。1963年宮崎市出身。
18年間テレビ番組編集者を務めたのち、文筆家として独立。家電から放送機器まで幅広い執筆・評論活動を行なう。一般社団法人「インターネットユーザー協会」代表理事。2015年から4年間、文化庁文化審議会専門委員を務めたのち、2019年に家族で宮崎へ移住。近著に改訂新版「学校で知っておきたい著作権」がある。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:改訂新版「学校で知っておきたい著作権」(汐文社)


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