AIデータセンターは2029年にサーバ1台の電力が1MW超へ、システム構成はどうなる組み込み開発ニュース(2/3 ページ)

» 2025年07月11日 06時30分 公開
[朴尚洙MONOist]

AIサーバラックの電力変換システムの構成

インフィニオンテクノロジーズ ジャパンの浦川辰也氏 インフィニオンテクノロジーズ ジャパンの浦川辰也氏

 AIデータセンターは複数のAIサーバラックから構成されている。現在のAIサーバラックは、外部からの交流電力を電圧50Vの直流電力に変換するPSU(電源供給ユニット)、50Vから回路に供給する電力として一般的な電圧12Vに変換するIBC(中間バスコンバーター)、そこからさらに動作電圧が1V未満となるGPUに対応した電圧まで下げるVRM(電圧レギュレーターモジュール)など、さまざまな電力変換システムが用いられている。この他に、停電時などでも安定的に電力を供給してダウンタイムを発生させないことを目的に、BBU(バッテリーバックアップユニット)などを用意することも多い。

現行のAIサーバラックに用いられている電力変換システムの構成 現行のAIサーバラックに用いられている電力変換システムの構成[クリックで拡大] 出所:インフィニオンテクノロジーズ ジャパン

 AIデータセンターの性能向上に合わせた電力供給量の増大により、この標準的なAIサーバラックの電力変換ユニットの構成も進化が求められている。インフィニオンテクノロジーズ ジャパン コンシューマー、コンピューティング&コミュニケーション(C3) 事業本部 テクニカルマーケティング部 シニアディレクターの浦川辰也氏は「現在のAIサーバラック1台当たりの電力量は250kW以下だが、2026年以降は250kW超の電力供給を実現していかなければならない」と説明する。

AIサーバラックへの電力供給の推移 AIサーバラックへの電力供給は、現在は250kW未満だが(左)、2026年以降に250kW超(中央)、2029年以降に1MW超(右)が求められるようになり構成も大きく変わっていく[クリックで拡大] 出所:インフィニオンテクノロジーズ ジャパン

 250kW超の電力供給では、より多くの電力を供給するために外部からの交流電力を変換するPSUは1相ではなく3相のシステムに移行する。そこでPSUは、BBUなどとともに「Power Side Racks」として別体にまとめられる見込みだ。PSUからの出力電圧も、AIサーバラック本体に効率良く電力を送れるように、従来の50Vではなく400Vもしくは800V(±400V)に上げることになる。そしてAIサーバラック本体では、400Vもしくは800Vの高電圧をいったん50Vに下げる高電圧IBCを経由してから、低電圧IBCで50Vを12V/6Vに下げ、VRMでGPUに供給する1V以下の電圧まで降下させる。

250kW超の電力供給を行うための電力変換システムの構成 250kW超の電力供給を行うための電力変換システムの構成[クリックで拡大] 出所:インフィニオンテクノロジーズ ジャパン

 インフィニオンは外部電源とつながるグリッドから、GPUに電力を供給するコアに至るまで、AIサーバラックに求められるパワー半導体をラインアップしている。「これらのパワー半導体を用いたレファレンスデザインも提供しており、電力変換システムメーカーの製品開発期間の短縮に貢献している」(浦川氏)という。

 PSU向けについては、1相で3kW、3.3kW、8kWをカバーする製品とレファレンスデザインを用意している。今後の250kW超の電力供給に向けては、2025〜2026年に1相と3相に両方で12kWに対応していく方針である。BBU向けでは、現在は12kWまで対応しているが、今後はより多くのバッテリー容量が求められることにより電力変換部のスペースを削減する必要があり、電力密度をさらに向上しなければならない。浦川氏は「まずは回路トポロジーの変更で25kWまでのブレークスルーを実現する。将来的には、シリコンMOSFETをGaNデバイスに置き換えてさらなる電力密度の向上を目指す」と述べる。

PSUのラインアップ PSUのラインアップ[クリックで拡大] 出所:インフィニオンテクノロジーズ ジャパン
BBUは現在12kWまで対応しており、今後は回路トポロジーの変更で25kWまでのブレークスルーを実現する BBUは現在12kWまで対応しており、今後は回路トポロジーの変更で25kWまでのブレークスルーを実現する[クリックで拡大] 出所:インフィニオンテクノロジーズ ジャパン

 IBCでは、電圧50Vからの降圧に用いるIBCに対応する製品とレファレンスデザインを提供している。2025年第1四半期からは、IBCの機能を一体化したモジュールのサンプル提供も開始した。なお、高電圧IBCは250kW超の電力供給が求められるタイミングに間に合うように開発中である。

電圧50Vからの降圧に用いるIBC 電圧50Vからの降圧に用いるIBC[クリックで拡大] 出所:インフィニオンテクノロジーズ ジャパン

 コアとなるGPUへの電力供給では、プリント基板を挟んでGPUの裏側に実装することを前提とした垂直型電力供給製品によって電力変換効率を高めるアプローチをとっている。「IBCやGPUと同じプリント基板の面上に実装する場合、寄生成分が大きくなるため最大20%の損失が発生する。しかし、垂直型電力供給製品は寄生成分が小さいので損失は最大3%までに抑えられる。プリント基板の面積を削減できるというメリットもある」(浦川氏)。

GPUへの電力供給では垂直型電力供給製品によって電力変換効率を高めるアプローチをとっている GPUへの電力供給では垂直型電力供給製品によって電力変換効率を高めるアプローチをとっている[クリックで拡大] 出所:インフィニオンテクノロジーズ ジャパン

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