次に、RFIでは、「(医療)提供者」に関して、表2のような質問項目に関する情報提供を求めている。
ここでは、医療提供者が関与する使用事例やワークフローに関連する質問について、全てのステークホルダーから意見を提供してもらうことを目的としている。
なお米国の場合、日本のマイナンバー制度のような国民共通IDがないことから、州発行の身分証明書や民間が発行するデジタルID(例:CLEAR、ILogin.gov、ID.me)など、既存技術の活用を前提としたデジタルアイデンティティーに関する質問項目を設定している。
さらに、医療保険者に代表される「支払者」に関して、表3のような質問項目に関する情報提供を求めている。
もともと、医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)は、提供者(医療機関)と支払者(医療保険者)の間でやりとりされる保護対象保健情報(PHI)の取り扱いにおいて、プライバシー/セキュリティを保護することを目的として制定された法律であることから分かるように、CMSのデジタルヘルス政策上、支払者(医療保険者)も、重要なステークホルダーと位置付けられている。
続いて、このRFIでは、「技術ベンダー、データ提供者、ネットワーク」に関して、表4のような質問項目に関する情報提供を求めている。
ここでは、技術ベンダーやデータ提供者、ネットワークが関与する使用事例やワークフローに関連する質問について、全てのステークホルダーから意見を提供してもらうことを目的としている。
「3.技術標準規格と認証」で出てくる「ONC医療IT認証プログラム」は、本連載第111回で触れた通り、米国の医療DXやデータ2次利用を支える継続的なインセンティブ付与施策に関係してきた仕組みである。この認証を取得した機器/サービスがインセンティブの対象となるので、デジタルヘルスベンダーのビジネスモデルにとっても重要な位置付けにある。
ここまで触れた主要ステークホルダー向けの質問項目に加えて、今回のRFIで特に注目されるのは、「バリューベースケア組織」に関する情報提供を求めている点である。
CMSの定義によると、「バリューベースケア」は、メディケアやメディケイド、医師およびその他の医療専門家が、ケアの質、提供者のパフォーマンス、患者の体験を重視して設計された医療を表すために使用する用語である(関連情報)。ここでいう「バリュー」とは、個人が最も大切にするものをさしている。
バリューベースケアの場合、医師およびその他の医療提供者が協力して個人の全体的な健康を管理しながら、個々の健康目標を考慮する。CMSイノベーションセンターは、医療の最適なアプローチを特定するために、バリューベースケアモデルのパイロットプログラムを実施している。
ただし、全てのバリューベースケアモデルが成功するわけではない。実際にCMSイノベーションセンターは2025年3月12日、納税者保護の向上と米国人のより健康な生活のために、現行のバリューベースケアモデルのうち以下の4つを2025年12月31日付で終了することを発表した(関連情報)。
加えて、子どものための統合ケア(2020年〜2026年)の規模縮小またはモデル変更を検討するとしている。また、バイデン政権時代の大統領令第14087号(米国人の処方薬費用の削減)が第2次トランプ政権で撤回されたのを受けて、以下の2つの未実施モデルを中止するとしている。
このような第2次トランプ政権の政策変更を受けてCMSが策定したのが、前掲の「米国を再び健康にするためのCMSイノベーション戦略」であり、それを実装するための第一歩が「情報提供依頼(RFI):医療技術エコシステム」になる。
ホワイトハウスでは、2025年5月12日に「米国の患者に最恵国待遇の処方薬価格を提供」(関連情報)を発表するなど、薬価引き下げを巡る動きが注目を集めている。公的医療保険における薬価設定を所管するCMSが、同時に、デジタルヘルスを活用したバリューベースケアモデルの再構築に取り組もうとしている点は非常に興味深い。
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