続いて中国の取り組みについて触れたい。中国は、2023年に国家数据局(国家データ局)が設立され、国を挙げてデータを活用した産業競争力の強化を図っている。データ要素3カ年行動計画や、100以上のデータ共有圏の急速な立ち上げが掲げられている可信数据空間(Trusted Data space)の展開に加えて、欧州のデータ共有圏の取り組みともIDSA(International Data Space)のHubを2カ所設立するとともに、HaierやHuaweiなどが積極的に欧州とも連携したデータ共有圏の取り組みを実施している。
データ連携の対象としては、中国国内企業のみならず、東南アジア含め新興国も対象になってくることが想定される。日本としては、東南アジアはじめアジアのデータエコシステムやデータサプライチェーンを形成していく上でも中国の動向は注視する必要があるだろう。
まず中国における欧州データ共有圏との連携について触れたい。これまでの自動車やロボット技術でもそうであったように、中国は欧州をはじめとする先端の地域/企業との連携や活用を徹底的に行いノウハウを蓄積する。その知見を基に自国としての展開や、自国産業の競争力強化を急速に行ってきている。共有圏においても同様に、初期のタイミングは欧州との密接な連携を実施し、欧州の取り組みにHuaweiや、Haierをはじめ参画し取り組みを進めるとともに、IDSAのHubの設立などを行いノウハウ/知見を蓄積している。
欧州との連携を図り知見やノウハウの蓄積を図るとともに、同時並行で中国独自のデータ戦略やデータ共有圏の展開を急速に進めている。国家データ局をはじめ複数組織が共同で「『データ要素×』三年行動計画」(2024〜2026年)を発表している。データ資源が急速に求められる中で、「データ供給の質が低い」「データ流通が円滑でない」「データの活用不足」といった課題が存在する。その課題を解決し、データによる価値の倍増効果を中国の新たな成長エンジンにするためのロードマップである。以下の5つの重大項目で構成されている。
同行動計画のポイントは、2.に示したデータ流通インフラ構築の取り組みとなる「可信数据空間(Trusted Data space)」とともに、5.にあるような具体的な産業実装の計画だろう。12の重点分野においてデータ活用を通じた具体的なビジョンやユースケースが示されている。
データ活用やデータ共有圏の議論においては、抽象的な議論にとどまってしまい推進が進まないことが起こりがちである。その観点からも具体的なビジョンやユースケースを示し、具体的に検討が進みやすい状況を作っていることは日本においても参考とすべきだろう。
本記事の5ページ目で、同行動計画で示された各領域におけるデータ活用/連携を通じたビジョンの事例を紹介している。製造分野では、データ連携を通じてジェネレーティブデザイン(設計の自動化)を実現していくことも掲げられており、AI(人工知能)時代における新たな競争力の蓄積も見据えたビジョンとなっている点は注視が必要だ。ジェネレーティブデザインや生成AI(言語モデル開発やRAG(検索拡張生成)ソリューション開発)では、学習/参照データが肝であり、この点が横断的なツール開発においてはボトルネックとなりがちである。
⇒「『データ要素×』3カ年行動計画で示された各領域におけるビジョンの事例はこちら
加えて国家データ局は2024年に、データ共有圏である可信数据空間について、2024〜2028年の5年間のロードマップを発表している。2028年までに100以上の信頼できるデータ空間を構築し、全国一体化データ市場を支えるネットワークを形成することを掲げている。(1)企業向け、(2)業界(産業)向け、(3)都市(地域)向け、(4)パーソナルデータ向け、(5)クロスボーダー(国境を越えた)の5つの領域でのデータ共有圏構築を急速に進める計画だ。
この国家データ局の発表を踏まえて、中国全土でデータ共有圏を実装する動きも進んでいる。可信数据空間は国家データ局の主導の下で、国家発改委や工業情報化部(MIIT)、国家網信弁など関連省庁、各地方政府の大数据局(ビッグデータ局)や数据管理部門、中国情報通信研究院(CAICT)や各業界団体が連携する。
本記事の6ページ目で可信数据空間のユースケースをまとめている。中国として100のデータ共有圏事例の構築を掲げており、幅広い業界/企業/地域において急速にデータ共有圏の検討、実証が進んでいる。
中国が産業横断で束となって付加価値の高い学習データを提供することにより、例えば自動車や家電などの最終製品を含むジェネレーティブデザインツールなどを世界に先駆けて展開する可能性は十分にあり得る。一方、日本ではデータ共有圏の重要性が示されているものの、欧州のバッテリーパスポート対応などを除くユースケース開発においては民間側の感度が十分に高まっていない状況である。
アジアでのデータサプライチェーンやエコシステム形成において、重要なベンチマーク先である中国において、ここまでの急速な立ち上がりを見せていることを十分に注視していくべきだ。日本としても、これまで以上に危機感を持ってデータ共有圏の検討、推進を行っていく必要があるのではないだろうか。
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