北欧では、PRIME-ROSEとは別個に、ノルウェーeヘルス研究センターが調整役となり、ノルウェー科学技術大学(NTNU)、フィンランドのオウル大学、スウェーデンのウメオ大学が連携して、北極圏を含むオーロラベルト地域におけるEHDSの導入に向けた準備や実証実験を行う「北欧保健データスペース(NHDS)」プロジェクトを、2023年9月1日〜2025年8月31日の間実施している(関連情報)。プロジェクトに関わる資金については、ノルウェーeヘルス研究センターと、EU傘下の欧州地域開発基金/Interregオーロラプログラム(関連情報)の支援を受けたノルウェー北部地域のトロムソ県が拠出している。
このプロジェクトでは、オーロラベルト地域および地方レベルでの国境を越えたガバナンスを強化し、国境を越えた地域間のケーパビリティを高め、保健医療データの共有と再利用における障壁を最小化し、より効果的な医療システムを実現することを目指している。そして、以下のような目標を掲げている。
なお、EUのInterregオーロラプログラムは、社会的/生態的/経済的に持続可能な開発を目標としており、このプログラムの支援を受けた全てのプロジェクトに対して、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献することを求めている。NHDSの場合、「目標4:質の高い教育をみんなに」「目標9:産業と技術革新の基盤を作ろう」「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」への貢献を掲げている。
ノルウェーが関わっているCANCER-IDやPRIME-ROSE、NHDSは、EUからの資金提供を受けており、プロジェクトの研究成果は「欧州オープンサイエンスクラウド(EOSC)」などを通じて、広く公開されることになる。
他方、EU未加盟のアイスランドは、欧州のオープンサイエンス/オープンデータ戦略上重要な役割を果たしている。前述のEUの研究開発プロジェクト事例のうち、OpenAIRE-Advanceプロジェクト(関連情報)は、欧州の研究を支援するために恒久的でオープンな学術コミュニケーション基盤の確保を目的として、2018年に設立された法人組織「OpenAIRE A.M.K.E」を母体とする非営利パートナーシップである。
このコンソーシアムは、欧州の電子インフラストラクチャを運営し、多様な公共サービスの提供を通じてオープンサイエンスの普及を促進している。そして、欧州各国の主要な国家組織に配置された専門家ネットワーク(NOADs:National Open Access Desks)によって支えられている。OpenAIREのサービス利用者としては、研究者、研究コミュニティー、政策立案者、研究機関、中小企業(SMEs)、大学、図書館、市民科学者など、さまざまなステークホルダーを想定している。
OpenAIREは、本連載第116回で取り上げた共通欧州データスペース(CEDS)において、EOSCの主要な実施主体という位置付けにある。このOpenAIREを支えるNOADsの代表例が、アイスランド政府のオープンデータポータル「statice.is」(関連情報)だ。このデータプラットフォームは、アイスランド統計局により運営されており、人口、社会、産業、経済、環境など、さまざまな分野の膨大なデータに無料でアクセスできる。アイスランド統計局は、オープンデータを広く提供することによって、市民、研究者、企業が十分な情報に基づいた意思決定を行い、データ駆動型のソリューションを促進できるようにすることを目指している。
また、statice.isはSDGsと連携しており、アイスランドの指標データをSDGsの目標17項目ごとに参照できる機能を備えている(図2)。
statice.isは、EUのデータ戦略に沿って、広範な欧州データエコシステムと連携している。ユーザーは、EUのオープンデータポータルである「data.europa.eu」(関連情報)でアイスランドのデータセットを見つけることができる一方、statice.isの「Open Data Iceland」や「Icelandic geoportal catalogue」経由でもアクセス可能になっている。この相互関係を利用すれば、研究者はアイスランドの保健医療データを他の欧州諸国のデータと比較することにより、国境を越えた協力や洞察を深めることができる。
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