256量子ビットのチップの設計と製造は64量子ビットのチップと同様に理研が担当した。2×2の4量子ビットを単位とするユニットセル構造を踏襲し、64量子チップに対して縦横をそれぞれ2倍に拡張した。
チップサイズが大きくなった分、量子ビットを構成するジョセフソン接合の酸化膜厚みや酸化状態などのばらつきの影響も大きくなる。この問題に対して、ジョセフソン接合にレーザーを照射して酸化の状態を調整するレーザーアニールという独自技術を適用し、変動係数を適用前の4%から0.6%にまで低減した。
システムをまとめる際には実装が課題になったと富士通の佐藤氏は説明した。「希釈冷凍機のサイズや冷却能力は、64量子ビットの超伝導量子コンピュータに使ったものが開発時点においては最大であり、4倍もの回路や部品を収容できるかがチャレンジだった」(同氏)。
多段で構成される希釈冷凍機の熱収支を細かく分析し、4Kステージの増幅器を中心に発熱の抑制を進めた。また、量子チップが装着されるボトム・プレート部分についても、低温同軸ケーブルを接続するコネクターの小型化などの工夫によってサイズの増加を最小限に抑えた。併せて、現実問題として組み立てられるか、部品やケーブルを取り外せるか、修理できるか、といった観点でも慎重に検討し、全ての部品を収めて冷却できる見通しを得たという。
今後の展開としては、2021年4月1日に理研内に発足した理研RQC-富士通連携センターの活動をさらに4年間延長し、1000量子ビット級あるいはそれ以上の超伝導量子コンピュータの実現を共同で目指していく考えだ。
理研の中村氏は、「量子コンピュータにはさまざまな方式があり、それぞれに強みと課題がある。理研では超伝導式だけではなく光量子式などにも取り組んでいて、実験チームと理論チームで20チームを数える。引き続き高忠実度化や大規模化を中心に、富士通とも連携しながら、社会実装までをシームレスに推進していく」と述べた。また、「次の目標である1000ビット級は分からないことがたくさん出てくるだろう。まずやってみることが重要。ただしそこがゴールではなく、最終的には数万〜数十万量子ビットを目指していきたい」とも述べた。
富士通の佐藤氏は「1000ビット級は、技術的に動くものを作れるかだけではなく、コストも追いかけていきたい。要素技術を持つベンダーにも協力を呼び掛けてエコシステムを構築していく」と述べた。なお、1000ビット級の開発を加速するとともに、実機を設置するために、川崎市のFujitsu Technology Park内に「量子棟」の建設を進めていて、2025年9月末の竣工を予定している。
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