移動型陸上支援センターの開発と製作は日本無線が担当した。日本無線は第1ステージでも常設型陸上支援センターの製作に関わり、そこで必要とされる技術の開発のみならず標準化や制度とインフラの整備において同社がこれまで無線領域で培ってきたノウハウを反映したという。
常設型では遠隔操船ために開発して用意した全ての機材をフルセットで利用できる一方で、移動型では市販のキャンピング用カーゴトレーラー「AIRSTREM SAFARI」の車体サイズ(全長7.98×全幅2.48×全高2.86m)に「必要最小限」の機材を搭載することを重視している。
外部とのネットワークはLTEと低軌道衛星通信のStarlinkを載せ、常設型ではオンプレミスで運用していたサーバ機能をクラウドに移行することで移動型に搭載する機材の数と容積を減らしている。開発を担当した日本無線陸上支援技術リーダーの佐藤茉莉氏は、「基本的にはStarlink回線を使用しますが衛星のブロッキング(Starlinkが使えない国や海域)や悪天候などによって通信が途絶えた場合はLTE回線に切り替えるように設定をしています」と説明する。
内装は既存のキャンピングカー設備はもとよりパーテーションや床面などを全て撤去して床の補強と配線の工事などを施している。「限られた空間の中で快適で効率的な作業環境を実現するために複数のレイアウトパターンを検討した結果、現在のレイアウトに落ち着きました」(佐藤氏)。
内部は遠隔操船要員として「船長」「機関長」2人のシートをタンデムに並べ、それぞれのシート前にコンソールを置いている。佐藤氏はシートを複座航空機のようなタンデム配置とした理由について「(メカニック的な見た目の演出ではなく)船長と機関長のコミュニケーションが円滑にできて、かつ、法律で定められた車両の全幅制限内(=2.5m未満)でコンソールとシートを2つ配置する方法がタンデムだった」と説明する。「コンテンツの視認性確保は重要な課題の一つですので、着座位置からのスクリーンの見え方に配慮し、座席とスクリーンの角度を調整したり前部座席と後部座席でチェアの座面高を変えたりといった工夫をしています」(佐藤氏)。
前部座席には船長が着座し、各船が安全に航行できているかを陸上から遠隔で監視する。現時点では、4隻の無人運航船の運行状況や自律航行システムの健全性などをまとめて確認できるという。船上の装置に何らかの異常が発生して自律航行システムの健全性が低下すると船名がハイライトされてすぐに詳細を確認できる。必要に応じて本船とコミュニケーションを行い航海計画の変更などの支援も可能だ。
操作性は実証航海の結果を反映して今後も改善する。「航海の業務フローを考慮して操作が複雑にならないよう画面構成やデザインなどを工夫しています」(佐藤氏)。
右画面では、船上の航海計器で計測された位置情報や深度速力といったセンサー情報、発生中のアラート情報などを確認できる。左画面では、周辺海域の気象情報や航行警報、海難事故情報といった安全に関わる情報を確認しながら航海計画を作成し、無人運航船に送ることも可能だ。収集したデータを使って衝突危険領域や海域の航行密度などを分析するコンテンツを陸側から提供する。「分析には膨大なデータを高頻度に処理する必要がありますが、(移動型であるが故に)計算リソースが限られている中で効率よく(演算することで)即座に結果を提供するように工夫しています」(佐藤氏)。
後部座席には機関長が着座し各船の機関システムを遠隔で監視する。画面構成は本船の機関制御室で通常見ている機関コンソールと同等で、船の推進力と電力の概要を陸側画面でも確認可能だ。さらに、燃料は赤、冷却清水は青といったように機関室にある実際の配管ラインの色と合わせて状況を即座に把握しやすくしているという。
画面の左上にはエンジン回転数やプロペラの翼角といった船のスピードを保つために重要な情報を表示。エンジンの燃料油、潤滑油、冷却清水、制御空気など各供給システムの健全性と稼働状況も確認できる。
なお、前部座席と後部座席に表示する画面は必要に応じて入れ替えることが可能だという。
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