MONOist 日立製作所(日立)に入社してからのご経歴を教えてください。
森田和信氏(以下、森田氏) 2004年に中途入社して20年以上がたった。入社時は技師の立場で、大みか事業所(茨城県日立市)などでシステム設計やSE(システムエンジニア)を担当してきた。その後、インダストリーセクターのトップを青木(優和氏。現在は日立グローバルライフソリューションズ 取締役会長)が務めていた時に産業・流通BUのCSO(最高戦略責任者)を担当した後、インダストリーセクター内を横串で通すための組織であるインダストリー事業統括本部のCSOを務めた。2021年4月からは産業・流通BUのCEOとなり、2023年4月のインダストリアルデジタルBUへの名称変更後もCEOを引き続き務めている。
今振り返ると、中途入社の立場だったから活躍できたこともあったかと思う。インダストリアルデジタルBUとしては、自動車や食品、医薬品など各産業分野の顧客が何を求めているのか、その求めに対してわれわれは何を提供しなければいけないのかをしっかり考える必要がある。日立入社前、三菱油化(1994年に三菱化成と合併して三菱化学、その後、現在の三菱ケミカルに)に在籍しており、日立の顧客側の立場で仕事をしていたので、そうした知見もあった。
日立は研究開発のチームや事業部を支える層の厚さが強みだ。さらに、ITとOTそれぞれの個別課題に対応したソリューションとプロダクトのポートフォリオがある。それらを掛け合わせてトータルシームレスソリューションを実現し、総合的な顧客価値向上を図っていくことに現在は注力している。
MONOist 産業・流通BUからインダストリアルデジタルBUへと名称を変更したのは、どのような理由からでしょうか。
森田氏 大きな理由は2つある。1つは、産業・流通BU時代に、デジタル領域の成長に注力しきれなかったという反省がある。2016年に東原(敏昭氏。日立 取締役会長 代表執行役)がLumadaを活用してデータオリエンテッドなデジタル事業を展開していくと宣言したが、われわれもこれまで以上にデジタルのソリューションビジネスに力を入れていく必要があると考えた。産業や流通といった対象となるマーケットはそのまま変わっていないが、よりデジタル寄りの価値提供を推進することを事業メンバーにも強く意識してもらうために名称を変えた。
もう1つは、インダストリアルデジタルBUがトータルシームレスソリューションのけん引役として活躍していくのだ、というメッセージを社内外に浸透させるためだ。日立は現在、自社のプロダクトをデータとデジタル技術で成長させ、顧客の組織や業務の間にある非連続な「際」をつないでいくことを目指している。インダストリアルデジタルBUはCIセクターで唯一、ソリューションビジネスを展開する部門だ。果たすべき役割は大きいと考えている。
MONOist 北米に拠点を置くHitachi Industrial Holdings AmericasのCEOも務めていらっしゃいますが、これはどのような経緯からでしょうか。
森田氏 Hitachi Industrial Holdings Americasは2020年、青木とともに北米地域のインダストリーセクターの事業統括会社として設立した。
当時から、インダストリーセクターはグローバルマーケットへのアプローチ力が弱いことが課題感としてあった。そこで、2017年7月に買収した米国で空気圧縮機事業を手掛けるサルエアー(Sullair、現日立グローバルエアパワー)と、2019年に買収したJRオートメーションを統合した統括組織として生まれたのがHitachi Industrial Holdings Americasだ。現在はCIセクターの北米戦略を担う組織として活動している。以前は青木がCEOを務めていたが、青木がCIセクターのトップを退任した2023年4月に引き継ぐ流れとなった。
MONOist ロジスティード(旧日立物流)の社外取締役も務めていますね。
森田氏 ロジスティードとは日立物流時代からWMS(倉庫管理システム)や物流関連の事業に共同で取り組んできた。現在、ロジスティードは輸送デジタルプラットフォーム「SSCV」の展開を進めているが、これは日立の基盤技術を組み合わせたサービスだ。
また、インダストリアルデジタルBUでは今後成長が見込まれるマーケットとして、自動車と医療/医薬品、そしてロジスティクス/サプライチェーンの3分野に注目している。今後人口が増える地域では、流通の発達も当然見込まれるからだ。社外取締役に就任したのはKKRによる日立物流の買収後だったが、ロジスティードの戦略をグローバルに拡大していくサポートをしつつ、インダストリアルデジタルBUの事業成長にもかなう形で協力できればという思いで引き受けた。
MONOist 現時点のCIセクターにおいて、インダストリアルデジタルBUはどのような事業的位置付けを与えられているのでしょうか。
森田氏 社内的な役割の一つに、われわれが「インナーデジタル」と呼ぶ取り組みがある。例えばプロダクトから生まれるデータを生かして、新しいサービスモデルの開発や業務効率化を進めていく取り組みなどがある。日立全体のテーマとして、プロダクト主体の既存ビジネスにデジタル技術を持ち込むことでいかに競争力あるビジネスに育て上げていくか、というものがある。デジタル技術が必要なのは社外向けの事業だけではなく、社内にも当然必要だ。しかし、従来はこうした投資が不十分だった。そこでこの領域を強化していく。
さらに、セクター間を橋渡しする役割も果たさなければならない。以前から、プロダクトビジネスを担ってきたセクターとデジタル専業のセクターでは、ビジネスの常識が異なることから壁が生まれていた。日立の事業成長にとってはもったいないことだ。
しかし、お互いに通じ合う事業領域がなければ、両者をつないでいくことがなかなか難しいのも確かだ。そこで、フィジカルレイヤーもデジタルレイヤーも抱えるインダストリアルデジタルBUが通訳となれば両者をつなぐことが可能になる。われわれはこれを「のりしろプロジェクト」と呼んでいるが、日立全体のケイパビリティーを向上させて事業成長させる役割を果たせると考えている。
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