AUTOSARの導入による効果としては、以下の2つがしばしば取り上げられます。
1つ目の再利用(reuse)については、「BSWを使っていれば、再利用はできている」という主張もあり得るとは思います。
それで納得/満足する方を相手にする場合であれば、それで通用するでしょう(この発想はあまりにも旧世紀の「員数合わせ」的ではありますが)。
しかし、SW-Cやその設計情報の再利用、そして、
の3つの観点で、まだやり残していることはないでしょうか?(図3)
「開発現場では実際には再利用なんてやっていない。再利用できるものはないんだよ」という声も時折耳にしますが※1)、上記の3観点がうまく回っていなければ、「再利用が機能しない」ことはやはり当然の帰結でしょう。再利用を機能させることができていない理由がどこにあるのか、そこに目を向ける必要があるでしょう。
※1)日本国内でよく耳にするのが「できたなりの再利用」や、「いや、実際には再利用なんてできない」という声です。
既存のものを、次の場面(展開先コンテキスト:deployment context)に合わせて手直しする、というのは、一見すると普通のことに見えますし、ISO 26262でいう「変更を伴う再利用:reuse with modification」をアドホックに行っている、と表現できます。
当然ながら、いかなる場合にも適用できる万能のものなんて作れるはずもありませんから、「生じうる/対応しようとする差異」の想定(variant想定)があってしかるべきです。
しかし、アドホックな再利用は、事前に計画された再利用とは異なり、「成立可能性」「合目的性」のような観点でのリスクが大きくなりますし、想定なしで作った/アドホックに変えたものが「再利用できなかった」からといって、「再利用はそもそも機能しえない」と結論付けるのは、少々乱暴ではないでしょうか。
また、variant想定をきちんと書き出そうとすると、実は要件やその実現戦略がそもそも記述できていないという問題にも直面することが多いと思います。
こんなこともあり、長岡技術科学大学大学院で2024年に担当した「安全・情報セキュリティ特論2」では、第3回講義をまるまる要件定義とその実現戦略ブレークダウンにあてました。
「実現手段と、達成せねばならないことを有機的につなぐ能力、そして、そこに現れるriskやvariationに適切に向き合う」ことができる人財はまさに財産でしょう(実際にはまだまれにしか存在しないと思います)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.