最後に、Miyabiにつながるこれまでのスパコンについて、東京大学 情報基盤センターのシステムを中心に簡単に紹介しておこう(図9)。
日立製作所製の並列コンピュータを利用していた時代である。
オープンアーキテクチャの時代を迎え、筑波大学 計算科学研究センター、東京大学 情報基盤センター、および京都大学 学術情報メディアセンターの3大学が、システム仕様の一部共通化や運用ノウハウの共有化などを目的に「T2Kオープン・スーパーコンピュータ・アライアンス」を締結した(図10)。T2Kは3大学の頭文字に由来する。予算などの条件や各大学の研究用途が異なることから仕様の統一化や合同調達は行わず、AMD Opteronプロセッサベースのシステムを各大学がそれぞれ同時期に構築した。
T2Kを踏まえた上で、調達と運用の共通化を図る新たな枠組みとして、東京大学 情報基盤センターと筑波大学 計算科学研究センターによってJCAHPCが組織された(図11)。2013年に両大学が共同で調達、構築したシステムは、東京大学が過去に運用してきた「Oakleaf」や「Oakbridge」と、筑波大学が1978年からスパコンの名前に使っていた「PACS」から、「Oakforest-PACS(OFP)」と名付けられた。
OFPは68コアを内蔵するメニーコアのインテルXeon Phi 7250(第2世代のKnight Landing)を8208基使った超並列システムである。性能は非常に高く、TOP500リストにおいて当時国内で最高性能だった「京」を3割ほど上回る13.6PFLOPSを叩き出している。また、京の運用終了から「富岳」の供用開始までの1年半の間は中継ぎ役としても活躍した。その後2022年3月末に運用を終了している。ちなみに、MiyabiはOFPの後継として計画されたシステムであり、愛称が決まる前は「OFP II」と呼ばれていた。
以上は代表的なシステムだが、両大学ともこれ以外に多くのシステムを構築してきた。NVIDIA製GPUをアクセラレータとして使い始めたのは筑波大学が早く、2012年稼働の「HA-PACS」が最初である。東京大学は2017年の「Reedbush-H」にNVIDIA GPUを採用した。これらのシステムを通じて、NVIDIA GPUを用いた科学技術計算のアクセラレーションや運用のノウハウを蓄積していった。
なお、筑波大学 計算科学研究センターにおけるスパコンの歴史は図12の通りである。東京大学、京都大学との3大学連携によるT2K以降、JCAHPCとして導入したOFPおよびMiyabiの系譜とは別に、図12の上側に示したように同センター独自のコンセプトに基づくアクセラレータを応用したCygnusやPegasusを独自に開発し、運用してきた。両システムとも現在も稼働中で、筑波大学の研究を支えている。
以上、Miyabiの概要、企業利用の形態、Miyabiを構築したJCAHPCの活動に関わるスパコン構築の歴史などを説明した。「AIを活用した科学研究の革新(AI for Science)」を促進するMiyabiの供用によって、両大学を中心にさまざまな研究が加速することが期待される。東京大学においては、大気(気象)、海洋、エネルギー、物理学、生物科学、バイオインフォマティクスなどが代表的な分野である。筑波大においては、特に素粒子物理学の進展に役立つと見込まれている。また当然ながらLLM(大規模言語モデル)の開発を含むAIそのものの研究やデータサイエンスにも活用されるだろう。
後編では、Miyabiの生みの親ともいえるJCAHPC 施設長の朴泰祐氏(筑波大学 計算科学研究センター 教授)、JCAHPC 研究開発部門 部門長の中島研吾氏(東京大学 情報基盤センター 教授)、JCAHPC 運用支援部門 部門長の塙敏博氏(東京大学 情報基盤センター 教授)、同副部門長の建部修見氏(筑波大学 計算科学研究センター 教授)のインタビューをお届けする。(次回に続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.