今回、コンセプトカーのアクセサリー開発に採用したHP Jet Fusion 3Dプリンタに対する評価ポイントとして、須崎氏は「表面の平滑さ」「速度」「リサイクル性」の3つを挙げる。
「表面の平滑さ」に関しては、「“3Dプリンタ=ガタガタ”という概念を覆すぐらい滑らかな表面を実現している。しかも、それを後加工することなく、プロットしっぱなしでキレイに造形できる点は非常に大きなメリットといえる。表面にザラザラ感があるがそれがシボっぽくもあり、プロダクトらしさを演出してくれている。東京オートサロン2024でも来場者の皆さんが本当に驚いていた」(須崎氏)と評価する。
「速度」については、東京オートサロン2024の会期に間に合わせるために、かなりタイトな日程で製作を進めていたが、DMM.make 3Dプリントをはじめとする関係者の協力もあり、非常に短納期でパーツを手にすることができたという。「将来のコンシューマー向け事業(構想)で活用する際には、翌日配送も可能になるのではないか」と須崎氏は期待を寄せる。
そして、「リサイクル性」に関しては、サポートレスでの造形や粉体材料の再利用率85%といった特長に加えて、モノマテリアル化によるリサイクル性の向上を挙げる。「自動車部品は非常に多彩なパーツがあり、それらは多種多様なマテリアルでできている。それらをモノマテリアル化できれば、さらにリサイクル性が高まり、より良いモノづくりにつなげられるのではないか」(須崎氏)。
一方、HP Jet Fusion 3Dプリンタの本格活用に向けた今後の改善要望として、須崎氏は「自動車部品は、さまざまなマテリアルが混在しているので、より多くの素材が選べるようになるとありがたい。また、自動車部品は表面にさまざまな表情を持たせるためにシボを打つことがあるので、シボ表現の再現ができるようになると助かる。後はコストだ。パーツとして量産するには現状だとまだコスト的に厳しい。将来的にはコンシューマーが買える価格帯を目指したい」と述べ、「材料のバラエティー」「シボ表現」「コスト」の3点の改善をリクエストした。
講演の後半、須崎氏は「ここからが本当に言いたかったことだ」と前置きし、未来へ向けた変革の必要性について説いた。
一般的なモノづくりの価値観として「製品は均一でなければならない」「意匠面、表面は平滑でなければならない」「量産意匠部品に3Dプリント品は使えない」といった考え方が定着しているが、須崎氏は「これらは全て固定概念だ。そこから脱却しなければならない」と訴える。
そして、ダイソン製品によく見られるフローマークについて取り上げ、「樹脂部品におけるフローマークはこれまで“悪”とされ、シボを入れたり、塗装したり、どうにかして見えない位置に持っていったりと、皆必死になって隠そうとしてきた。だが、ダイソンの製品はそれを隠そうとしていない。その結果どうかといえば、ダイソン製品は市場から認められており、クレームどころか世の中に広く出回っている。われわれ自身も固定概念という呪いを解き、展示会などを通じて、3Dプリンタ/AMの魅力を業界全体、そして一般顧客にも分かるように伝えていく必要がある」と須崎氏は述べる。
さらに、須崎氏は「デザイナー自身も価値観を変えないとダメだ。“手練れ”になればなるほど、経験を積めば積むほど、『こんな形状はできない』だとか『これだと型が抜けない』だとか、そういったバイアスがかかって最初からデザインしないことが多くなる。しかし、3Dプリンタ/AMを活用すれば、そういった制約を考えずに自由な発想でデザインすることができる。その前提でデザインをしていかないと世の中は変わっていかない。私自身がいろいろな場を通じて情報発信し、デザイン業界の常識を変えていきたい」と自身の思いを語る。
最後に、須崎氏はSUBARUの顧客層と3Dプリンタ/AMとの相性についても言及。「SUBARUのお客さまは、単なるクルマ好きというよりも、SUBARU自身のことを好きでいてくれている。同時に、アーリーアダプターの要素をすごく持っていると感じている。なぜなら、業界に先駆けて搭載した『EyeSight』について、当時まだ全く新しい技術であるにもかかわらず、それに付いてきてくれて、先行して使っていただけた。このSUBARUファンが持つアーリーアダプターの要素は、3Dプリンタ/AMに対しても寛容ではないかと思っている。われわれもこの取り組みを継続し、SUBARUのお客さまをもっとワクワクさせるような商品を作っていきたい」(須崎氏)。
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