宇宙分野は、地政学リスクや気候変動などにも関わる。宇宙産業の活性化で宇宙分野が環境に与える影響を考慮する必要性が高まるが、気候変動対策やESG(環境、社会、ガバナンス)に活用する機会も生まれる。
地政学的情勢の変化は宇宙分野の地域化や軍事化につながり、宇宙分野のグローバルサプライチェーンに影響を与える。国際協力の下で進められている宇宙計画がある一方で、国家間/地域間の覇権争いも生じている。宇宙の軍事化が進み、「防衛のための宇宙利用」から「宇宙における防衛」が広がりつつある。宇宙分野における新興国は宇宙開発計画に注力することで国際社会での役割強化を進めようとしている。
衛星データの応用による正確な情報は、人道支援や気候変動モニタリング、災害対策、農業や食料の安全保障など世界規模の社会問題の解決にも寄与する。さまざまなデータ収集やリスク評価、モニタリングに衛星技術が貢献する。
ただ、宇宙分野の発展に伴う環境負荷の低減も課題となる。企業活動における温室効果ガスの排出削減、製品のライフサイクル分析といった一般的な取り組みに加えて、大気圏上層部でのCO2排出の影響を定量化すること、持続可能なロケット推進剤の開発など宇宙分野に特有の取り組みも求められる。
技術面では、他の製造業と同様にデータの利活用などのDX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)といったトレンドも宇宙分野に影響を及ぼす。インダストリー4.0、アディティブマニュファクチャリング、サイバーセキュリティ、クラウドコンピューティング、5G、地球低軌道衛星通信、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ分析やディープラーニングによる予測などにより、分野横断的なイノベーションが進む。
地球観測は政府による需要がけん引している。地政学的リスクの高まりを受けて、安全保障や防衛を目的としたニーズが高まっている他、自然資源の管理や環境保護、サステナビリティに応用する動きも拡大している。地球観測データの活用は、産業用など新たなユーザーにも広がりつつあるが、認知度の低さや提供方法、価格設定などが障壁となっている。
衛星通信に関しては、インターネット接続に対するニーズを受けて国内での強化に力が入れられている。分野横断的な技術連携により、衛星と地上の機器をつなぐ端末間通信(D2D)サービスも実現しつつある。静止軌道衛星の事業者はM&Aを通じて低軌道衛星市場に進出し、存在感を高めようとしている。消費者向けブロードバンド市場では、Starlinkのような低軌道衛星事業者のサービスがシェアを伸ばしている。
ナビゲーションに関しては、GPS IIIやBeidou3、第2世代Galileo衛星の展開によって衛星測位システム(GNSS)の精度がさらに向上されるとみられる。GNSSに依存しない低軌道の測位衛星コンステレーションによるPNT(Positioning、Navigation、Timing)の商用化も進みつつあり、欧州や中国の政府系機関で関心が高まっている。GNSSの活用範囲も広がっており、航空分野では計器着陸システムではなく衛星データを活用した空港への進入方法など安全に関わる用途も登場している。
ロケットに代表される宇宙へのアクセスでは、開発遅延や打ち上げ失敗などリスクの高い領域だ。世界全体では過去最高の打ち上げ数が記録されたものの、中型や大型を中心にロケットの供給は不足している。企業規模にかかわらず厳しい環境に直面しており、生き残りに向けたビジネスモデルの刷新が不可欠だ。なお、各国で外国への依存を減らす取り組みが強化されており、超小型/小型ロケットは自国で宇宙分野をまかなう戦略的なステップと見なされているという。
宇宙の安全保障に関しては、小型衛星の急増の影響が課題となっている。地球低軌道の混雑状況を悪化させているため、持続可能性や宇宙交通管理を強化する必要性が高まっている。宇宙環境保全のバリューチェーンはデータ収集からサービス提供まで広がっており、関与するプレイヤーもさまざまだ。協力して取り組むには、データの共有と機密情報の保護を両立することが重要な条件となる。安全な宇宙環境を維持することが地球全体にとって必要だという認識の下、スペースデブリの問題を無視する一部の企業も含めて全ての国や企業が足並みをそろえて行動を起こす必要があるとしている。
地球外経済も生まれようとしている。地球周回軌道にある衛星の増加や月探査計画の発展は、軌道上支援サービスに新たな機会をもたらすという。低軌道衛星コンステレーションの構築においては、衛星を軌道上に正確に投入する必要があるため、状況を高精度に把握する能力の向上が求められている。スペースデブリの管理のため、軌道離脱を実現するサービスの必要性が高まっており、ビジネスモデルの確立も課題だ。月探査は企業の新たなビジネスチャンスとなっているが市場の中心は国家機関であり、上流のサービスについては投資家も慎重だ。
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