複合材料3Dプリンタで作る新しいスナップロック構造複合材料と3Dプリンタのこれまでとこれから(6)(1/2 ページ)

東京工業大学 教授/Todo Meta Composites 代表社員の轟章氏が、複合材料と複合材料に対応する3Dプリンタの動向について解説する本連載。今回は、従来のスナップロック構造と新しいスナップロック構造について解説します。

» 2024年10月03日 08時00分 公開

 本稿は3Dプリント複合材料の新しい製品における考え方の上級編として、スナップロックを取り上げます。

 まずは、スナップロック構造とは何かをごく簡単に説明します。いくつか種類がありますが、最も簡単なものを図1に断面図で示します。

図1 スナップロック構造 図1 スナップロック構造[クリックで拡大]

 スナップロック構造はプラスチック製品で採用されているケースが多く、図1の濃い青のような半球体の頭部と円柱軸を持ち、軸先端が二股に分かれて曲がる梁(はり)のようになっています。これらの軸先端は2本の足のようになっているため、足と呼ぶことにします。そして、足の先端に返しが付いています。図1では、部材Aと部材Bを接合するための孔(あな)に挿入する形でスナップロック構造を活用しています。

図2 スナップロックのロックプロセス 図2 スナップロックのロックプロセス[クリックで拡大]

 孔の中にスナップロックの返しを差し込むと、足は閉じます。これは素材がプラスチックのために剛性が低くく、足の部分が細い梁のようになって折り曲げやすいためです。このまま押し込んでいくと、図3のようになってロックされます。

図3 スナップロックのロック後 図3 スナップロックのロック後[クリックで拡大]

 スナップロックの返し部分が孔の外に出ると、足を閉じる力がなくなり足が開き、返しの影響で抜けなくなります。これが代表的なスナップロックです。ロックを外す際には、部材B面から返しをペンチなどで閉じて孔に足を押し込めば、図2の状態に戻って解除できます。

 このスナップロックは3Dプリンタに向いています。上図のように締結部材のAとBとして、ボルトやナット、木ネジのような締結材を使用する場合には、AとBの厚さが多少想定と異なっていても問題ありません。しかし、スナップロックは返し部分がAとBの厚さに合致していないと、締結できません。つまり、必要な時に必要なだけその場で成型する3Dプリンタ向けの部品と言えます。

 スナップロックの欠点は、「(1)足を閉じさせるために曲げ剛性が低くなる必要がある点」です。つまり、弾性係数の低い材料を使用する必要があります。締結材として一般的にプラスチック材料を利用するので強度と剛性は低くなります。そのため、部材のAとBを強く引きはがすと、返し部分が簡単に塑性変形してロックが抜けてしまいます。このことから、締結剛性は低いと言えます。

 もう1つの欠点は「(2)ロック解除が部材B面にアクセスできないと不可能な点」です。強引に引っ張ることで塑性変形させてアンロックすることはできますが、効率的ではありません。

 そこで、複合材3Dプリンタを用いて新しいスナップロックを製作することを考えてみましょう。問題点(1)は足部分に剛性が炭素繊維よりも低いガラス繊維を使うことで解決できそうです。炭素繊維を使うと剛性が上がりすぎて変形しにくくなるためです。

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