機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第14回は「デジタルを駆使できるエンジニアの育成」について、筆者の考えを述べる。
前回、筆者が所属するスワニーでは、「DESIGN FACTORY」という名称でスマートマニュファクチャリングの仕組みを展開していることを紹介しました。これにより、仕事はデジタル化され、誰もが同じように業務を遂行できるようになります。中でも「デジタルネイティブ」といわれる世代はデジタルツールの習得も早く、この仕組みの展開を後押しする存在になり得ると、筆者は確信しています。
現在、筆者は長野県南信工科短期大学校において設計製図実習を受け持っており、授業の中で3D CADやCAEの教育を行っています。1年生を対象に2024年6月末から週約7時間の講義を実施してきましたが、約3カ月経過した現在では、3Dパーツ/3Dアセンブリの設計を、基本的な設計の考え方を理解しながら、3D CADで行えるようになっています。1年生の中には、工科短期大学校に入学して、初めて3D CADに触れる人もいます。
そして、CAEについては、3D CADが使えるようになった2年生を対象に、例年週約4時間の講義を同じく3カ月間行っています。その結果、材料力学の基本的な知識の習得とともに、CAEツールの操作もマスターして、簡単な構造解析ができるようになってきました。社会人とは異なり、集中的に学ぶことができるとはいえ、デジタルネイティブである学生たちのデジタルツール習得の早さには講師としていつも驚かされています。
長野県南信工科短期大学校では、この教育の効果測定として、生徒たちにSOLIDWORKS認定試験を受講してもらっていますが、「CSWA(Certified SOLIDWORKS Associate)」で毎年100%の合格者と、「CSWP(Certified SOLIDWORKS Professional)」で毎年数名の合格者を輩出しています。
デジタルツールだからといって、単にメニューやコマンドを選んで操作すればよいわけではありません。それでは正しい設計や解析は行えません。「SOLIDWORKS」を例にすれば、設計パラメータを入力する必要があります。この設計パラメータを決めることが、設計そのものです。筆者が考える設計パラメータとは、要求仕様に基づき、形態(Geometry)を決めることと、そのサイズを決めること、そして機械特性として部品(製品)の材質を決めることです。
設計者は、要求仕様をきちんと理解し、適切な設計仕様を決めることができるスキルが求められます。そして、そのためには、やはり設計経験が不可欠となります。仮に、AI(人工知能)に設計仕様の検討を任せるにしても、どのような設計にしたいのかをきちんと命令するには、既に分かっているものについては定量的な指示を、抽象的/定性的なものであればより詳細な指示を出さなければなりません。要するに、AIを使うにしても経験値が必要になるのです。
試しに、ChatGPTに対して設計パラメータを与えてみたところ、図3のような3Dモデルを提示してくれました。
このときは、わずかな情報しか与えませんでしたが、ChatGPTは限られた情報と蓄積された学習結果に基づき、このようなアウトプットを生み出したわけです。より詳細な情報を与えれば、もっと精度の高い、現実的な設計案(3Dモデル)を提示してくれるかもしれません。その可能性を十分に感じることができました。
そして、重要なのは、AIが自動生成した設計案(3Dモデル)に対して、その妥当性を正しく評価するためのスキルです。これは指示を出した設計者自身(人)の仕事です。つまり、AIへの指示(入力)だけでなく、アウトプット(出力)に対する妥当性もきちんと評価できることが求められ、それは経験値によってのみ養われるものだといえます。
こうした背景から、未来のエンジニアとなる学生たちへの講義では、単に3D CADやCAEのオペレーションを教えるのではなく、その礎となる、機械設計や材料力学の考え方に重きを置くようにしています。これらはデジタルの知識ではなく、アナログの知識です。筆者は、この両輪があってこそ、デジタルエンジニアリングによる設計開発が可能になると考えます。
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