核融合発電とは? 優位性や安全性などの基礎を解説核融合発電 基本のキ(1)(2/3 ページ)

» 2024年09月11日 08時00分 公開

核融合発電の優位性

図3 核融合発電の優位性 図3 核融合発電の優位性[クリックで拡大]

 図3は、核融合発電の他の発電方式に対する優位性をまとめたものです。これらを1つずつ解説していきます。

 まず、資源が豊富で偏在しません。ここでは第1世代のD-T反応について述べますが、燃料の1つである重水素(D)は、水素原子核(1個の陽子)に1個の中性子が余分にくっつき、重さが2倍になったものです。二重水素の「二」を省略して、一般に重水素と呼んでいます。重水素は自然界において、水素の0.015%の割合で存在します。つまり、地球上では14億km3の水(97%が海水)があるので、50兆tもの重水素が存在することになり、事実上無尽蔵で偏在しません。

 次に、三重水素(T)は、さらにもう1個中性子がくっつき、3倍の重さになったものです。三重水素は自然界での存在比率が小さく、リチウムと核融合反応で発生した中性子の核反応を用いて核融合炉内で生産することになります。リチウムは、鉱山、塩湖に豊富に存在し、核融合発電のみを想定した可採年数は1000年程度です。

 さらに海水中のリチウム資源量は2000億tで、それらを回収できれば(現在研究中)、事実上無尽蔵となります。このように、燃料資源が豊富で偏在しないことが、火力発電や原子力発電に対しての優位性となるでしょう。

 第二に、環境負荷が少ないこと。核分裂も含めた核エネルギーにいえることですが、反応で二酸化炭素を排出しません。従って、火力発電に対しては、地球温暖化対策に貢献するという優位性を持ちます。次に図1を見ても分かるように、反応灰はヘリウムです。ヘリウムは放射性物質ではありませんし、そのまま放出しても環境に影響を与えません。つまり、原子力発電に対しては、高レベル放射性廃棄物を排出しないという優位性を持ちます。ただし、炉内機器が中性子で放射化し、低レベル放射性廃棄物になるというデメリットがあります。これについては後ほど説明します。

 三番目は、安定して供給できることです。核融合発電所は、1基で火力や原子力と同じ規模、つまり100万kWの発電量を想定して設計が進められています。これは、天候に左右される太陽光発電や風力発電に対する優位性といえるでしょう。

 最後の安全で平和的という項目ですが,これは原子力発電に対する優位性として挙げました。安全性については次の章で詳しく説明しますが、原子力発電と比較して本質的に高い安全性を有します。また、ウランといった核物質を保有しないために核不拡散の問題とは無関係です。なお、水素爆弾(水爆)は、核分裂による原子爆弾を起爆剤として核融合燃料を二次的に爆発させるものであり、純粋に核融合燃料だけでは原理的に爆発しません

核融合発電の安全性

 核分裂反応と核融合反応の大きな違いは、核分裂が1つの反応が次の反応を誘発する連鎖反応であるのに対し、核融合は1つ1つの反応が独立していて連鎖しません。つまり原理的に核融合反応が暴走することはありません。

 さらに、図4を見ていただいたら分かるように、核融合炉の運転状態は、ある一定の温度、燃料の量に制御されていないと、反応が停止します。つまり、燃料を止める、または加熱(電気)を止めると1秒程度で反応が止まります。さらに、もし制御ミスや操作ミスで燃料を入れすぎても(容器が壊れて空気が入っても)反応は同じように止まります。これを受動的安全性と呼び、核融合発電の高い安全性を示しています。

図4 核融合発電の受動的安全性 図4 核融合発電の受動的安全性[クリックで拡大]

 ここまで、核融合発電のメリットを強調してきましたが、デメリットについても述べます。原子力発電と同じく核エネルギーを利用する核融合炉において、放射線リスクはゼロではありません。第1世代のD-T反応で使われる三重水素(英語名、トリチウム)は半減期12年の放射性物質です。放射するベータ線(電子線)は、空気中を1cmほど飛ぶと止まってしまう弱いものですが、もし吸引すると内部被曝の恐れがあります。

 従って三重水素は管理/隔離しなければなりません。核融合発電システムの中では、三重水素は金属の配管やタンクの中を循環しているため、通常、三重水素は隔離されています。リチウムを使って炉内で生産しているので、所内への持ち込みや所内からの持ち出しもありません

 しかし、メンテナンス時、事故時なども想定して、多重に隔離する必要があります。ただ、核融合発電所が保有する三重水素の量は数kgであり、数十t以上のウラン燃料を保有する原子力発電に比べて放射性物質の量は桁違いに少なくなります。最悪の事故を想定しても、周辺住民が避難するような状況にはなりません。

 核融合発電のエネルギーの源である高速の中性子が核融合炉内部の金属を放射化し、核融合炉の廃炉に伴って放射性廃棄物が出ます。その廃棄物は、原子力発電の使用済核燃料から出る高レベル放射性廃棄物には分類されず、低レベル放射性廃棄物に分類されます。

 現在、低放射化材料で装置を作る研究が精力的に進められていますが、現在開発されている候補材料を用いれば、100年間管理保管すると、大部分は溶かして再利用が可能な放射能レベルにまで減衰します。装置の金属は、拡散するものではなく、地表近くのトレンチやピットで管理することができます(一部は中深度処分になる可能性があります)。

 ここで、第2世代以降の核融合反応に話を移しますが、どうして実現が難しいとされる反応に挑戦しなければならないのでしょうか。それは、ここで述べたデメリットと大いに関係しています。まず三重水素を扱わないということです。実はD-D反応炉、D-He3反応炉でも副反応によって三重水素が発生しますが、D-T反応で消滅してしまいます。

 次に第3世代以降では、中性子発生が大幅に抑えられるので、炉の放射化の問題が軽減します。第4世代のp-B11燃料では、中性子発生がほとんど抑えられ、地上で実現できる究極の核融合反応といわれています。また、いずれも荷電粒子(陽子やヘリウム原子核)の発生があり、直接発電の可能性が生まれます。直接発電が実現すれば、炉のコンパクト化や発電効率の向上が期待できます。

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